内容説明
文学史の闇に輝く日本のドストエフスキーが、対話と告白で現代小説の方法を構築し、宇宙の中の生存の謎を追求して現代人の彷徨える心に啾々と訴える幻の名作群。本巻は「中央公論」に連載された自伝的小説『人間開業』をおさめる。
感想・レビュー
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りりん
3
直木三十五から、ユーモア小説作家として佐々木邦と並び評された大泉黒石の自叙伝である。冷静かつ皮肉的に淡々と綴られていく著者の人生は、一冊に纏めるにも珍妙な経験ばかり。ロシアとの混血ゆえに日本とロシアを行き来した少年時代と、辛酸を舐める労働者時代、その血統ゆえに差別され続けた文士時代。順風満帆とは言い難い人生を自虐的にまとめてしまう。ゆえに大切な人の死でさえも、文章から一切の悲嘆が感じられず、それが内奥に押し殺す悲しみを匂わすようでうら寂しい。苦慮を苦慮のまま記述しないところに大泉黒石の矜持を見た気がした。2014/01/24