内容説明
印象派から未来派まで、短時日のうちに芸術史を駆け抜けた孤高の作家・有島武郎の文学と思想の軌跡を、『或る女』『惜みなく愛は奪ふ』『星座』など代表作を網羅して執拗に追究した。近代の総決算でもあり、現代の出発点ともなったその転回の様相を、「創造的生命力」「小説構造論」「芸術史的転回」「表象のパラドックス」の4つのキーワードに即して縦横無尽に論じ切った、著者のテクスト文芸学の到達点。旧版を大幅に拡充した増補改訂版。
目次
「色は遂に独立するに至つた」―有島武郎文芸の芸術史的位置
「魂に行く傾向」―有島武郎におけるウォルト・ホイットマンの閃光
係争する文化―「文化の末路」と有島武郎の後期評論
過激な印象画―「かんかん虫」
生命力と経済―「お末の死」
不透明の罪状―『宣言』
永遠回帰の神話―「カインの末裔」
迷宮のミュートス『迷路』
楕円と迷宮―『迷路』
想像力のメタフィクション―「生れ出づる悩み」〔ほか〕
著者等紹介
中村三春[ナカムラミハル]
1958年、岩手県に生まれる。東北大学大学院博士課程中退。北海道大学大学院文学研究科教授。日本近代文学・比較文学・表象文化論専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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澄川石狩掾
1
再読。 有島武郎研究を大きく進歩させた中村三春の論文集にして、筆者の『フィクションの機構』、『修辞的モダニズム』の実践編ともいうべき著作である。本書では全編に亙って様々な文学理論がこれでもかと使われていると同時に、特に「テクスト様式論」、「表象のパラドクス」の観点から有島のテクストを論じ、全編を通して表象=代行に回収され得ない「色」の諸相を描き出している。 一方、本書は筆者の初期から近年に至るまで長い期間の論文を収めているので、弁証法的な初期の論文から、「反啓蒙の弁証法」(補論)に至る変化も興味深い。2020/05/07




