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出版社内容情報
自らの筆で描く自らの前半生の物語。
水俣水銀中毒事件をモチーフに『苦海浄土』という“世界文学”を書き上げた石牟礼道子とは何者か? 葭が茂り、その茎から貝たちがいっせいに海に飛び込むような美しい不知火海で生まれ育ち、今も不知火海の傍で生活する石牟礼道子。前史を含め、幼少期から戦争体験を経て、高度経済成長へと邁進する中で、『苦海浄土』を執筆。「近代とは何か」を、失われゆくものを見つめながら描き出す白眉の自伝。
『熊本日日新聞』大好評連載。
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
どんぐり
40
『苦海浄土』を著した石牟礼道子の自伝。裏返しにした着物を着て裸足でよそ様の家の前に立って何か呟き、尋常でなくなった祖母のおもかさま。母はるのは、10歳のときに「自分の方が親にならんば」と思ったという。汽車の中で栄養不良の戦災孤児タデ子と出会い養った50日間、田舎の嫁の一人としての疑問から始まって、代用教員を体験したり、化粧品や靴下を売ったりしながら著者が思ったことは、今の世の中に自分が合わないということだった。その違和感が、近代とは何かという大テーマとともにその後の水俣病問題へ深く関わっていくことになる。2014/03/20
chanvesa
23
前半は牧歌的なまでの美しさが素晴らしい。後半は石牟礼さんの苦渋がほとばしる。最後の頁の「近代合理主義という言葉があるが、そういう言葉で人間を大量にゆるゆると殺されてはたまらない。こういうことが許されていけば、次の世代へ行くほどに、人柱は『合理化』という言葉で美化されていくだろう。」。石牟礼文学には犠牲を人柱という言葉にしてしまわない、鎮魂の墓標として魂をゆさぶる面があると思う。豊穣な自然やおもかさまをいたわる心の美しさには、化粧品を売って儲からなくても、ヤミ米を鰯と交換できなくても代えがたい重さがある。2015/06/05
algon
17
熊本の新聞連載を発刊した本だがなんとか自伝まで行きついた感慨がある。まだ読むべき著作はいろいろだがまず「並み居る他の文学者とは明らかに異なる著者の資質形成の過程が客観的に理解できるのでは?」という平たい欲求・期待で読んだ。「椿の海…」の幼時から「苦界浄土」を手掛け始めるまでの期間の自伝だがとりわけ文学者の萌芽時の煩悶、苦界浄土を書かざるを得なくなる苦悩などを興味深く読んだ。しかし初期時代でも同人誌巻頭言の名文などで驚かされる。若い頃は生活者として全く非力だったこと、両親のことなど全体興味深く面白く読めた。2022/02/13
勝浩1958
12
女史は近代以前にひとと自然が共生していたそのあり様を今に蘇らせてくれる巫女のような存在であります。いっぽうで、水俣病に対して文学をもって痛烈に警鐘を鳴らし続ける正義の人であります。ほんとうに素晴らしい人だと思います。2015/11/18
マウンテンゴリラ
9
あらためて調べてみると、著者が亡くなられたのは2018年の2月ということなので、はや4年半ということになる。私が、水俣病を題材とした、「苦海浄土」を読んだのは、著者の晩年の頃であり、それまで恥ずかしながら名前さえ知らなかった。しかし、その衝撃は忘れられず、 私の中では、最も偉大な作家の一人とも言える。事件の真相は勿論、その描き方は、職業作家の技巧などという枠を超えた、全身全霊を込めた告発、それも知識人や第三者としての批判では無く、完全に被害者になりきり、しかも事件の被害者というだけで無く、→(2)2022/07/23