内容説明
19世紀、時代の先頭を驀進する鉄道を駆使した“鉄道小説”の先駆!官能の果てに愛する女を刺し殺した機関士が秘める人間の血腥い獣性を抉る。
著者等紹介
ゾラ,エミール[ゾラ,エミール][Zola,´Emile]
1840年、パリに生まれる。フランスの作家・批評家。22歳ごろから小説や評論を書き始め、美術批評の筆も執り、マネを擁護した。1862年、アシェット書店広報部に就職するが、1866年に退職。1864年に短編集『ニノンへのコント』を出版、1865年に処女長編『クロードの告白』を出版。また自然主義文学の総帥として論陣を張り、『実験小説論』(1880年)を書いた。1891年には文芸家協会会長に選出される。1897年暮れからドレフュス事件においてドレフュスを擁護、1898年1月、「私は告発する!」という公開状を発表。そのため起訴され、同年7月イギリスに亡命。翌年6月に帰国、空想社会主義的な『豊穣』『労働』などを書いたが、1902年9月29日、ガス中毒により急死
寺田光徳[テラダミツノリ]
1947年生まれ。大阪市立大学大学院文学研究科博士課程単位修得退学。博士(文学)。弘前大学人文学部教授を経て2002年10月より熊本大学文学部教授。専門は19世紀フランス文学
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感想・レビュー
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ケイ
127
再読。炭坑で働く人々の過酷な暮らしを書いたゾラは、ここでは石炭を使って動く機関車に関わる人々を描く。機関車は、すでに生活の一部となり、名前まで与えられ、世話をされる。登場人物たちは欲深く、隣人を妬む。ゾラは、彼ら小市民の欲を剥き出しにする。そして、獣人とはだれか? コントロールできない残虐性を持つ者だけでなく、理性や善良さより自らの欲を満たそうとする者は、人間性より獣性が勝ってしまったのだろう。夜の闇の中で、ナイフを振り上げた男を一瞬てらした光がうつしだした顔は、まさに獣ではなかったか。2016/11/01
まふ
110
パリ―ルアーブル間の西部鉄道会社を舞台にした殺人事件物語。機関士ジャック・ランチェ、ルアーブル駅助役ルボーとその妻セヴリーヌを中心に鉄道会社に関わる人々の平穏な毎日がグランモラン重役の殺害事件で大きく揺れる…。「鉄道小説」の嚆矢とされているらしいが、ゾラの物語としては社会性・政治性が高いわけでもなく、殺人を犯す者たちの心理面を抉った「娯楽作品」と言えるかもしれない。物語をまとめる力はさすがと思わせるが、期待していたインパクトはイマイチであった。でも、面白かった。G1000。2024/02/28
NAO
58
ルーゴン・マッカール叢書17巻。マッカール一族の汚れた血を受け継いだジャック・ランチエが苦しめられた「女を殺したい」という衝動。それこそが獣性ともいえるものだが、この獣性は、ジャックだけが持っているものではない。裁判長の愛欲。ルボー、フロール、ペクーの嫉妬。誰もが心の中にひそかに獣を隠しており、ある時その獣が目覚めると、人はその虜となって、衝動的な行動に走ってしまう。その、恐ろしさ。2017/06/30
、
26
19世紀末の人類の営みの生々しい姿がよく描かれている。この時点での人類の営為の総決算である科学及び文化を象徴する「鉄道」そして、利己的に振る舞い、本能に突き動かされて生きる獣のような「人間」の姿が対比されている。本書の中で鉄道のモチーフは、章を追うごとに単なる乗り物というモチーフから未来へ向かって進んで行く人間を紡ぎだす営みのモチーフへ転移する。書中これでもかと描かれる獣のような人間達を乗せた、人類の営みそのものであり未来へ向かう鉄道という大きな獣は終盤、猛り狂って暴走していくのだが、その行き先は……。2015/05/28
ラウリスタ~
19
ゾラを読むのは正直しんどい部分がある、現代人からするとこの連載小説丸出しの冗長さは、昼ドラを一気見させられるような感覚を与える。それでも、この獣人はかなり面白い要素をたくさん含んでいる。登場人物全員殺人者みたいな「殺人」の実験としてのくだらなさは、それはそれでその後の大衆文学、映画の定番を決定づけたのかもしれない。愛しい女のように形容される蒸気機関車は、瀕死の馬と共に同じ断末魔をあげる。この小説の恋愛シーンでは、エロスとタナトスは完全なまでに一致した様相をみせる、そして結構克明、1890年。2016/06/02