内容説明
純朴な田舎の美青年リュシアンは文学的野心に燃え、地元社交界のスターである人妻とパリへ出奔するが、彼女に捨てられてしまう。理想に殉じ清貧に甘んじる青年詩人たちと知り合った彼は、その同志となる。だが安食堂で出会ったジャーナリストの手引きにより、いつしか新聞・出版業界の裏側へと迷い込む。そこで彼が見たものは、お追従記事や事実の捏造、いんちきの署名等々。メディアの汚濁に浸かりきった元詩人は、幻滅の果てに帰郷する。すると印刷業に精を出す、親友にして義弟ダヴィッドが同業者に騙され、おまけにリュシアンのミスのせいで逮捕されてしまった!絶望に沈み、自殺を決意してさまようリュシアンの前に、スペイン語訛りの謎の男が現れる…。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
135
メディアに良心はあるか?活字は 、たやすくヒーローを作り上げ、また陥れることもできる。またそれを信じる人の愚かさよ。良心を持っての告発か、それを報じることの裏側には何があるかを考えてみよ。これはバルザックからの警告だ。例を作ってみせてくれている。そして、悪とは何か。小狡い悪人たちをも超越するような悪は、ときに善にしかみえない。潔く、詐欺まがいなことはしない。もっと大きな目的があるのだ。それを体現するヴォートラン。颯爽と登場し、美しく才能があり誘惑に弱いリュシアンを馬に乗せてさらって行った。2018/03/10
NAO
54
リシュアンを仲間として対等に扱い共に成功を目指そうと励ますセナクールの面々も、ジャーナリストとしてあることないこと書きまくるルストーも、物書きという人種の象徴的な姿だ。そして、自分に甘く世間に流されやすく、心の中は見栄と虚栄心ばかりのリシュアンもまた文学を目指す人間の一つの姿なのだろう。破滅したリシュアンが帰郷すると、故郷では、自分が描いた偽造手形のせいで妹夫婦が大変なことになっていた。上巻ではジャーナリズムの世界を、下巻では印刷所に関する訴訟をと、メディアの世界が徹底的に描かれている。2016/05/21
syota
32
いわば作家から見た業界内幕話だが、出版産業やマスコミが勃興し、文学が王侯貴族の庇護を離れて自立しはじめた時代の姿が、驚くほどリアルに描かれている。バルザック自身が作家業の傍ら記者や新聞発行人、印刷業にまで従事していたとのことで、実体験が基になっているからこそ、これだけ詳細な迫力ある描写が生まれたのだろう。大量の登場人物が類型化せず、それぞれ個性豊かなのもさすが。内容的には、やはりパリを舞台にした第2部(上巻後半と下巻前半)が最も輝いている。ずっしりとした読み応えの大作だ。[G1000]2016/04/29
みつ
22
権謀術数渦巻くパリの出版界において得意の絶頂にあったリュシアンも、やがて失敗続きに。もともと甘やかされて育った彼のこと、好意(実は策略)により幾許かの金を得るとすぐに散財し或いは賭博に費やすなど、生活破綻者に近い状態になってくる。金策に走り回る中、田舎の妹夫婦を巻き込み、今度は上巻冒頭に現れた印刷用紙の発明の権利を巡る思惑が交錯する。リュシアンをひたすら信じる友人にして義弟のダヴィッドもその餌食に。物語はどんどん加速するが、終わりがけにまたもや怪しい人物が現れ、リュシアンの運命は閉じることがない。➡️2022/03/14
H2A
15
失意の帰郷をしたリュシアン。彼のせいで清貧実直な親友ダヴィッドは窮地に陥る。故郷でも繰り広げられる陰謀と打算の地獄絵。死を決意してさまようリュシアンの前に現れたのはあの人物。その甘い誘惑に私も惹かれる。小説の醍醐味を堪能。2009/11/08