内容説明
明けても暮れても夜逃げ倒産のニュースで騒がしいこの不景気日本の運命をかこつ者が、そんな事態は洋の東西、古今を問わず、珍しくもなんともないと知って慰めになるかどうかは定かでない。だが、今から約二百年前のフランスでも倒産騒ぎは日常茶飯事、まじめ一方、商売一筋の香水商もちょっと気をゆるめたばかりに不運と悪意につけこまれ、あっという間に倒産の憂き目。ただ当時のフランス、今の日本でも珍しいのは、破産宣言を受けたこの男が、なにがなんでも負債を全額返済しようとする律義さ。破産してしまえば負債は帳消し同然、あとはまたうまくやるさ、と考える輩の多いこの世の中で、その努力はまさに第一級の貴重品。彼の大奮闘の首尾やいかに。さあ、お立ち会い、お立ち会い…。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
95
地方から出てきて地道に働き香水商としてある程度成功したビロトー。しかし、後半で彼の伯父が言うように半分しか商人になりきれていなかった。彼と彼の家族、その周りの人の書き分けが見事。ジゴネが取り立てにくる時の彼の引き連れてくる闇の暗さには、肝が冷える思いがした。ピロトーを陥れる二人と彼を助ける伯父とがピロトーを間にはさみ綱引きをしている様子を今回は神が見てくださっていたか…、お金では買えない名誉。バルザック的悲劇や無情さが少なく心を落ち着けて読むことができた。破産時の手続き等の説明も非常にわかりやすい。2018/02/04
NAO
67
絶頂期にある香水商に仕掛けられた罠。幸せなときほど人は自分を過大評価して失敗してしまうものらしい。セザールは周囲の献身的なフォローでその名誉は保たれたが、もちろんこんなにうまくいくことなど稀。人はやはり地道に生きるのが一番なのだが、上辺ばかりが華やかなパリでは、それがなかなか難しいことらしい。とはいえ、バルザックの登場人物の一つの典型ともいえる嘘偽りの塊ティレが、いかにもパリ的なやり方で儲けたとはいえ、最終目的を果たせなかったのは、バルザックの話としては珍しく、ちょっと胸のすく話だった。2018/06/29
みつ
22
「ある香水商の隆盛と没落」との副題付き。このバルザック「人間喜劇」セレクションでは、著者の表題とは別にすべて副題がある。もとの表題だけでは食指が動かない読者を誘導するためだろうか、この作品の場合、分かりやす過ぎる面もある。一方で登場人物がやたらに多いため、簡単でも人物紹介表がないと手に負えない面も(別巻の「ハンドブック」を読めというのは不親切)。得意の絶頂にあった主人公の土地への投機と公証人の裏切り、元使用人の復讐、破滅の淵からの復活と、「金」を巡る愛憎劇が現代にも通じるやりとりの中で展開される。(続く)2022/01/08
ラウリスタ~
14
流し読み、だが正直読むのが相当辛かった。物語そのものとしては香水商が仲間だと思っていた人に裏切られて、銀行家を駆けずり回るが破産し、でも最後には借金を返しきってその直後に死ぬ、すごい単純。金金金、で現代の小説を読み慣れている人からすれば「早く物語に戻ってくれ」となる(それはレミゼラブルにも言えるが)。そう思って、一部だけフランス語で読むとすごく面白く思える。だからあらすじだけ押さえた上でいいところじっくり読む方がいいのかも。あとニュシンゲンのセリフをカタカナにするのはもう嫌だ。後書きから思うのは2021/01/17
きりぱい
11
最初からくどくないのが読みやすい。香水商だからさぞかしその筋の蘊蓄が・・と思っていたら、売り出しに熱心なのは養毛剤だった!副題からもわかるように破産しても、ますます深まる夫婦の愛に救われて全然暗くない。ビロトーをカモにする悪党たちもはっきりしているのに、ビロトー自身がはた迷惑な被害を生んだというやむを得ないところもあって、義憤を覚えるということも少ない。善人より悪党が台頭する方が面白いというのはあるけれど、これはこれで穏やかな面白さで、と思っていたら、ラストに、あらら!2011/06/28