内容説明
十一月のその日曜の晩、ぼくはラベ・ド・レペ通りにいた。60年代のパリ。蘇える事件の記憶。過去と現在が錯綜する時間の狭間で、パリの街を彷徨う。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
YO)))
28
『その娘のブロンドの前髪、頬骨、それに緑色のワンピースが、八月の午後の初めを彩るただ一つのすがすがしさになっている。答えの出ないなぞを解こうと亡霊たちを追いかけて何になるというのだろう?人生がそこに、ごく単純に、日差しを浴びて存在しているというのに。』―嗚呼,本当に.それでも人は亡霊を追い求めて記録を,記憶を辿り,書物を手に取らずにはいられない.(続く)2016/02/07
伊野
7
やや難解なフランス映画の様な雰囲気。「ぼく」の回想のなかのパリは、かろうじて残り香が現実感を留める色のない廃墟の様相。そのなかで起こった出来事は決してドラマティックではなく、起伏に富んでいる訳でもないけれど、廃墟に咲く小さな花々のようにピクチャレスクな美しさを有している。2014/10/14
きゅー
4
モディアノらしい作品。ストーリーにきっちりと起承転結があるわけでもなく、結末もぼんやりとしている。語り手は中年の男性で、彼は少年時代のこと、彼が生まれる以前に起きた事件のことを回想する。そして、まだ戦後まもないパリの細い路地、カフェで起こる他愛もない出来事が幾度も書き記される。『廃墟に咲く花』というタイトルは、そうしたエピソードを表現しているのかもしれないし、あるいは記憶という廃墟に咲く幸せな思い出を意味しているのかもしれない。2012/01/19
花野
2
脈絡もなくエピソードが語られており、でもその一瞬一瞬が鮮明にイメージと感情が写される。パリが、彼が失ったものとはなんだったんだろ。2014/12/15
燕
0
自分が育ち、今も生きる場所パリで起こったある印象的な殺人事件と、自分のまわりの人々や想い出が交差し、溶け合い、ある謎の多い人物の想い出、謎に繋がっていく。何かが起こるわけではないけれど、主人公の中で何かが感じられ、理解され、永遠に世界が、おそらく変化する。こういう書き手がいて、読み手がいる、大変にフランス的作品、なんだよねえ。2015/06/23