内容説明
特異な感受で現世より翻然と羽搏く幻視の歌人・葛原妙子。その透徹の眼差の奥行に触れる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かふ
19
図書館本で返却期限が来たので感想。葛原妙子は台所や日常性から幻視の異界へ導いていく短歌が面白い。後になると非日常の旅行とか楽しむ短歌も出てくるが、むしろ日常の中に潜む非日常的な幻視が面白いのだ。あと葛原妙子の独特な破調は癖になる。「いまわれはうつくしきところをよぎるべし星の斑(ふ)のある鰈を下げて」「晩夏光おとろへし夕 酢は立てり一本の瓶の中にて」「他界より眺めてあらばしづかなる的となるべきゆふぐれの水」「ちゃんねるX点ずる夜更わが部屋に仄けく白き穴あきにけり」 2023/10/05
有理数
16
『幻視の女王』と呼ばれ、些細な日常から凄まじい幻想の世界を垣間見た葛原妙子の詩歌が稲葉京子の鑑賞文と共に収められています。「秀でた比喩とは、二つのものの生の相似を瞬間に掴む精神の早業である」と葛原妙子は語ったそうですが、彼女の歌は、本当に誰にでもあるような一瞬の光景や場面から、不穏であったり耽美であったり、まずそのようなものとは結びつけないというところに独特の世界観で結び付け、見事に歌として収斂させています。実は短歌ってそこまで触れたことはなかったのですが、非常に美しい歌ばかりで心地が良かったです。2015/01/28
yomihajime
1
葛原妙子の幻視は独特な世界。親戚、親子といった日常の直面している人間関係はほとんど読まない。彼女の眼に映る風景。いったいそこに何をいつも探していたのだろうか、みつけていたのだろうか。2013/01/27
はちみつぐすり
0
大気の冷えをむらさきとする作者は、肉眼では見えないむらさきの粒子をその心で捉えてるよう。日常の風景を詠んでいても、気が付けばそこに連なる別の次元に辿り着く。「医家の庭掘りゐるときのシャベル音異形のものにつきあたりたり」「穴を掘るといへど不吉の穴ならず大きダリヤの球を埋めむ穴」医家に生まれた葛原妙子ならではの言葉の並びなのか、球根を植えるという生命の息吹溢れる行為も不吉さが漂う。冗談のようにダリヤを植える穴ですよ、と言うようでいてその球根が土の中で腐り果てる様を予感させる。2015/03/03
-
- 和書
- 転移の心理学