内容説明
昭和11年、十勝の原野に入植した著者が5年間の開拓生活を精細に綴った感動の記録。雪と寒さの悲惨な冬、巡り来る喜びの春―。開墾の労苦の中で自然を愛し、寒地農業の確立と農村文化の向上を訴え続けた純粋な魂の告白が胸を打つ。
目次
1 十勝原野―新しい生活への準備
2 新しい生活
3 理想と現実
4 建設の闘い
5 雪、雨、霧、霜
6 百姓の来年
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
アナクマ
26
「一つの生命が生まれる。動物の世界であれ、植物の世界であれ、考えて見れば実に驚嘆す可き事実である。…偶発的事実の連鎖の中に、厳然たる自然の秩序と意義を感ずる。農業技術と雖も自然の征服ではなく、人間の可能な範囲に於ての、自然との和合の所作に過ぎない」◉「正しい自然観は正しい農業観と正しい人生観をもたらし、そしてそれは又正しい生活をもたらす筈である」◉「第一に才能の無いのと、時間の無いのと、石油が無いのとで、無い無いづくしで思う事の大部分は書けず、幾度かペンを投げた」1942年ごろ、十勝での開拓生活中の文章。2023/01/29
rincororin09
3
誰もが知る六花亭の包装紙。可憐だが強靭な北国の花々が、どのような手で、どのような眼で描かれたのかがよくわかる。苦闘といってもよい日々の暮らしの記録の中で、鮮烈に光を放つ草木や移ろう季節の描写。2019/11/07
アナクマ
3
(p.163)自然は美しいが彼等の収穫を多くする肥料にはなり得なかったし、又農業技術の足しにはならなかった。蒔かれた種は、水と空気と温度が有れば発芽したし、又水と肥料と日光が有れば成長して穣った。それ以外の物は雑草にも等しい無価値な物か、或いは考える可能の範囲外のものとして、一瞥の興味も関心をも喚起する力は無かった。残された悲しむ可き無知と迷妄とを打破る武器は、知識と豊かな愛情と逞しい意思でなければならない。正しい知識は正しい欲望を生むに違い無い。2016/11/28
mim42
3
私の知らない北海道がここにある。しかし、私はこの本を他人事のようには読めない。 先ほど立ち読みした雑誌の中で、池澤夏樹が薦めていた。
必殺!パート仕事人
1
著者は六花亭の包装紙の絵で知られています。北大を出て開拓・酪農とは賢治と共通するものがあるかも。激しい労働のせいで絵筆が握れないという記述がありました。『大草原の小さな家』でもとうさんがバイオリンを弾けないというのを思い出しました。最後は記録を取るのも難しくなったようです。”極度の倹約は、僻みと誤った卑下を生んだ。それは退嬰と自尊心をの欠如を意味する””僻地の開業医は競争者がないために、不親切と金取主義の横暴を極め、誤診は日常茶飯事であり…””現金が無い農民に対して非現実的な農業政策の講義をしたり”2024/06/19