内容説明
氷の嵐、炎に縁取られた塔、雲の海に浮かぶ“高楼都市”―中期傑作短篇集、本邦初訳。
著者等紹介
カヴァン,アンナ[カヴァン,アンナ] [Kavan,Anna]
1901年、フランス在住の裕福なイギリス人の両親のもとにヘレン・エミリー・ウッズとして生まれる。1920年代から30年代にかけて、最初の結婚の際の姓名であるヘレン・ファーガソン名義で小説を発表する。幼い頃から不安定な精神状態にあり、結婚生活が破綻した頃からヘロインを常用する。精神病院に入院していた頃の体験を元にした作品集『アサイラム・ピース』(40)からアンナ・カヴァンと改名する。終末的な傑作長篇『氷』(67)を発表した翌年の1968年、死去
安野玲[アンノレイ]
1963年生まれ。お茶の水女子大学卒業。訳書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケイ
140
短編集。最初の3つで、この人は自分の事しか考えていない、自分からの視線だけ、それも思いっきり病んでいるし嫌だな…と思い始めていたのに、次第に底に持つしたたかさに気持ちを引っ張られた。p123で男が言う「君も動物や何かに少しは感情移入してみるといい。そうすれば人間関係が築けるようになる」それへの女の反応が捻れの関係。不幸や運のなさ、理解してもらえなさをウリにする女の語りはウンザリだが、ここの女たちは幸せになろうとなんかしてなく、ただ狂って薄笑いしてるようなのが、ゾッとさせるし、すごくいい。2020/05/24
藤月はな(灯れ松明の火)
93
表題作は既読。再読しても美しい初夏の光景に見つけた異質さに背筋が粟立ちます。「受胎告知」は誰も救う事ができないジェンダーを悪用した家庭内の虐待を受ける孫娘の軋む心の描写に目を背けたくなる。そして祖母がいつまでも少女めいた若々しさを持っているという点に怖気が奮った。「幸福という名前」は現実から目を逸らし、過去の幸福にしがみ付いた女性の心理が見事だ。だが『泳ぐひと』や『欲望という名の列車に乗って』と違い、ラストが爽やかなのは彼女が矜恃を持ち続けている事だろう。でもあの場所にあの格好で出て来る事こそ、ホラーだ…2020/05/23
HANA
71
平穏な世界、そんな世界も皮膜を剥けば不安に満ち溢れている。というイメージはアンナ・カヴァン作品を読むたびに受けるイメージだけど、本書にもそれは通底している。それは輝く草地だったり、船の上の男の行動だったりと思いがけぬ事を切っ掛けに我々の前に姿を現す事に。特に表題作は思いもかけぬものが人生にふと現れるという点で名作「あざ」や「敵」に勝るとも劣らない出来。他にも男の行動一つで言葉にできない何かを表した「ホットスポット」や男女間にあるもの「或る終わり」がとても好み。言葉にし難い冷たい不安感を味わいたい方は是非。2020/03/18
アナーキー靴下
69
短篇13作品収録。アンナ・カヴァンは2冊目だから想像できていたものの、何も知らずに読んでいたら、爽やかなタイトルから抱くイメージとの差に困惑していただろう一冊。肉体の重さを背負いきれず、覚めることのない悪夢に閉じ込められていたい、恒常性にも似たその思念の強さに引きずられそうになる。「氷の嵐」「クリスマスの願いごと」「睡眠術師訪問記」に特に惹かれてしまう。これが芸術かどうかは別として、言葉で芸術作品を作るにはこの方法しかないのではと思う。受け手に解釈は委ねられていない、直接的に何かを想起させる伝達方法。2021/03/01
かりさ
59
見ていた世界の不確かさに揺さぶられ、二度と平穏な心持ちには戻れない。カヴァンの紡ぐ情景は頭の片隅に永遠に。時おり会いたくなるのは自分の確かさに救われるからなのかもしれません。やはり表題作のあの光景は強烈。再度息を詰めて読みました。古き英国の雰囲気と幻想さが不穏に導く「幸福という名前」、『氷』を思わせる「氷の嵐」は冒頭の《とろりと心地よい琥珀の冬のぬくもりをまとっていた》という表現が好き。冒頭からの意外なラスト「小ネズミ、靴」続く2020/03/03