内容説明
旅の果てにたどりついた、“管理者”の邸宅“鷲の巣”と、非現実世界のサンクチュアリ。
著者等紹介
カヴァン,アンナ[カヴァン,アンナ] [Kavan,Anna]
1901‐1968。フランス在住の裕福なイギリス人の両親のもとにヘレン・エミリー・ウッズとして生まれる。1920年代から30年代にかけて、最初の結婚の際の姓名であるヘレン・ファーガソン名義で小説を発表する。精神病院に入院していた頃の体験を元にした作品集『アサイラム・ピース』(40)からアンナ・カヴァンと改名する。終末的な傑作長篇『氷』(67)を発表した翌年の1968年、死去
小野田和子[オノダカズコ]
1951年生まれ。青山学院大学文学部英米文学科卒業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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HANA
59
世界は悪意で彩られている。読みながらどうしてもカフカの『城』を連想させられるのだが、本作では主人公の行動を主に阻害するのは官僚的機構のみならず自身の自意識が主になっている様に思えた。読者は常に主人公の視点を通して世界を眺めるため、自意識が流出しそれによって現実が歪んで行く様を存分に眺めさせられる。人物も『氷』同様、一人以外個人名ではなく役職で記されているのもそれに輪を掛けている。読みながら城の中ではなく心の中の迷路を彷徨わされているように感じた。ただ、ラストはちょっと取って付けたようにも感じられたが。2016/01/04
星落秋風五丈原
50
いきなり仕事を首になってしまうというくらーい始まりからどんどん主人公の狂気に引きずられそうになってこわい。著者はどんな心理状態に追い込んで書いてるんだろう。2016/12/01
えりか
39
冒頭から絶え間なく押し寄せてくる不安。足元からバラバラと地面が崩れていく感じ。そわそわとさせる。絶望と自意識が私を幻影の世界へと連れていく。夢か現か、その境は曖昧なまま。希望は絶望へと変わり、絶望は得たいの知れない暗い不安となって私に四六時中襲いかかってくる。私が私であると証明することも、あなたがあなたであると証明することもできない。永遠に夢と現実をさ迷い続ける。2016/03/15
ぐうぐう
32
「凄まじい孤独感に襲われた。すべての人から永遠に切り離されてしまったような気分だった。ーー打つ手はなかった。それでも耐え切れず、どうしてもなにかせずにはいられなくて、絶望のうちに窓を開け放ち、身をのりだした。そうすることでだれかに……下の街路を急ぐ人影のひとつに、近づけるように思えたのだ」何もかもがうまくいかず、孤独を抱えて生きる「わたし」の、最後にして唯一の希望である「管理者」のいる「鷲の巣」への就職。しかし、その希望であるはずの「鷲の巣」でも、「わたし」は不安に苛まれる。(つづく)2018/06/25
汀
20
《わたしはここにいる権利はない。この部屋にわたしの居場所はない……この屋敷に居場所はない……それをいえば、この世界にも》わたしがカヴァンを好きなのはこういう所。2016/04/28