内容説明
マスカルは恒星アルクトゥールスへの旅で此岸と彼岸、真実と虚偽、光と闇を超克する…リンゼイの第一作にして究極の観念(SF)小説。
著者等紹介
リンゼイ,デイヴィッド[リンゼイ,デイヴィッド] [Lindsay,David]
1876年、ロンドン生まれ。スコットランド人の父とイングランド人の母を持つ。スコットランドの旧家リンゼイ一族に連なる名門の家系であったが、生活は苦しく、大学進学を断念して保険会社に勤務する。38歳のとき結婚したのを機に、コーンウォールの田舎に暮らし、執筆活動をおこなうようになる。大作である第一作『アルクトゥールスへの旅』をこの地にて書き上げ、以後、『憑かれた女』『スフィンクス』『ド・メイリイ氏の冒険』などを世に問うたものの、正当に評価されなかった。1945年、死去。その後、対立しあう“二つの世界”を思弁的に描いた作家として高く評価されている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケイ
129
まるでユニバーサルのアトラクションで、近未来の乗り物に乗り、次々と違う部屋に連れて行かれ、各部屋ごとに違う景色を見せられているようだった。そして帰ってきたら、また出発しなければならないような…。残念なのは、訳にリズムがなく、各ページの余白が少なすぎて読みにくいこと。21の各章の終わりごとに次のステップへのリズムを付けたような一文が来るのに、乗り切れず勿体無いと思う。解説も、訳者の解釈をひたすら聞いているようだった。知識を与えられるのは嬉しいが、読み方は読者に委ねてほしい。 2017/06/14
まふ
113
SF的ファンタジー小説。降霊術体験会が機縁でアルクトゥールス銀河の惑星トーマンスに旅立った主役のマスカルが様々な不思議な体験を重ねるが、最後に唐突に死んでしまう、という不思議な終わり方をして「ピンと来ない度」の高い小説。地球常識と異なる分かったような分からないような諸説がいろいろと出てくるが、説得性は今一つと思う。何よりも次から次に出てくる現地人(?)の名前がその章限りの「使い捨て」のようで煩わしい。訳者の解説も興奮気味であり、総じて作者の思いこみ度の激しい作品だった、としておこう。G1000。2024/01/13
NAO
59
クラッグという謎の人物に導かれての、異星への旅。異星でのあまりにも刹那的、衝動的なマスカルの行動に最初は驚かされるが、なんと、哲学の話だったとは。次々に登場する者たちによって提示される様々な考え方。それは、それを信じている者にとっては真実だが、別の段階にいる者によって簡単に打ち消されてしまうものでしかない。そうやって、マスカルが解脱に向かって進んでいく様子は、なんだか、低レベルの次元から高レベルの次元まで次々とダンジョンをクリアしていく哲学ゲームのようだった。2017/07/16
りー
29
SFと銘打ってありながら降霊術から始まり、宇宙船らしからぬ宇宙船で異郷へと向かう荒唐無稽な物語にがっちりと心をつかまれたのでもりもり読み進めたけれど、途中で気づいた。これ、SFという名前の哲学小説だ。アルクトゥールスには人間の五感の他に様々なものを感知できる感覚器官を持ったヒトがいて、それぞれが各々の哲学に従って生きている。基本的にはその生き物の哲学を共に生きたり拒んだりする主人公の数日間を描いた展開で、単調ながら発想の面白さに飽きずに読めた。ラストは思想的どんでん返しで、個人的には好きな作品だった。2014/06/14
磁石
22
あらゆる快楽に潜むクリスタルマンの恐怖、全方位から常時気づかせもせずに見つめている。人々の魂を切り刻み溶かし喰らうために創造主/神を名乗る、その実態はただの詐欺師で盗人に過ぎないものの、対峙するにはあまりにも途方もない。人は逃げることしかできないのか? 与えられた幻想を拒絶しきった先に、自分だけの理想はあるのか? ソレを欲することすら利用する相手に、一体どうすればいいのか? 荒野をさまよい続ける哲学者の旅2017/09/12