内容説明
ニューヨークの小さな食料品店を営む、ユダヤ系移民の店主とその美しい娘、店員となった孤児のイタリア系青年の物語。
著者等紹介
マラマッド,バーナード[マラマッド,バーナード][Malamud,Bernard]
1914年、ニューヨークのブルックリンで、ユダヤ系ロシア移民の両親の元に生まれる。ニューヨーク市立大学を経て、コロンビア大学で修士号を取得した。教鞭を執りながら執筆活動をおこない、1952年長篇『ナチュラル』を発表する。アメリカのユダヤ人作家として庶民の生活や道徳を描いたユーモアと抒情の溢れる名作を生み出した。1986年没
加島祥造[カジマショウゾウ]
1923年、東京・神田生まれ。早稲田大学英文科卒、カリフォルニア州クレアモント大学院留学。フォークナー、トウェインをはじめ、数多くの翻訳・著作を手がける。信州・伊那谷に独居し、詩作、著作のほか、墨彩画の制作をおこなう(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
61
ユダヤ人でありながらニューヨークの非ユダヤ人地区で食料店を営んでいるモリス・ボーバー。その暮らしは貧しく、閉塞感が漂っている。だが、ある日ふらりと店にやって来たイタリア系の青年フランクを雇ったことで、店に変化が現れる。そして、ボーバー一家との交流は、フランクを成長させていく。社会の底辺にいようとも、貧しくとも、まっとうに生きていくことの重さ。作中に出てくるドストエフスキーの名作が、なんとも象徴的に使われている。「君が前にぼくに読めと言った小説ね」 「君自身はあれをほんとに理解したのかい?」 2016/03/16
kana
35
ブルックリンの貧しい食料品店を営むユダヤ人夫婦とその美しい娘、そして店員として住み込む孤児院育ちのフランクの交流を描いた静かで美しい物語でした。しかしながら、静かで美しいというのはあくまで端から見ればの話で、当人たちは夢と現実の隔絶に打ちひしがれ、抑えきれない欲望に苦悩し、向上心を抱いてこの生活から抜け出そうともがき、店を存続させ生計をたてることに必死で、根底にはユダヤ民族の歴史と思想が息づいている。モリス、アイダ、ヘレン、フランクそれぞれの目線への転換が巧みで、それぞれの苦悩に胸が苦しくなりました。2013/03/03
星落秋風五丈原
31
【ガーディアン必読1000冊】アッシジのフランチェスコの生涯はイエスのたとえ話『放蕩息子の帰還』を地で行く。そんな彼に惹かれるのは、同じイタリア系のフランクだ。但し彼には捨てるべき家はない。イタリア系移民として蔑まれてきた。清貧を尊ぶフランチェスコを崇めながらも、明日の糧を得るために、仲間に誘われて強盗に押し入る。押し入った先は、ユダヤ人モリスの営むニューヨークの小さな食料品店だ。虐げられる民族が、同じく疎外される民族から搾取する構図になっている。社会の構造がそうなっている以上、個人の力で正すのは難しい。2020/12/08
ぺったらぺたら子
20
へたり込む程、凄かった。米文学の必読書として例えば「怒りの葡萄」や「八月の光」等と同等に扱われねばならぬ様な本だ。「罪と罰」的だが、圧倒的に身近でリアル、その分、苦しい、そして同時に信仰版「ロミオとジュリエット」でもある。劣悪な環境は劣悪な人間を作るが、しかし善を見出す機会は常にあるし、それが又、悪へと転ばぬ保証はない。人は常にぐらぐらな場所に強風に煽られつつ立っている。主人公が読むボヴァリーやカレーニナの様に。人はどうしても敵同士にならねばならぬのだろうか。狭い店内と近所だけの舞台に世界も歴史もある。2018/10/05
tom
18
読友さんに教えてもらった本。初読みの作家でもあります。アメリカの作家ジョン・ウィリアムズの「ストーナー」に通じる、しみじみとした切ない物語。コメントによれば、マラマッドは「貧乏叙情の名手」と評されているとこのと。貧乏人の叙情話なんてものは、お涙ちょうだいの教訓話にしかならないと見向きもしなかったけれど、この物語は、ちょっと違う。でも、暗い話だから、体力気力のある季節にしか読むことできません。2016/04/13