出版社内容情報
父親の期待を受け、コンクールに入賞を目指し幾度となく挑戦する青年。結果を出せぬまま、やがて、父親との確執の中で心を閉ざします。そんなとき、青年はひとりの少年と出会い、入賞だけが音楽ではないと……。「生きていくこと」を問うガブリエル・バンサンの珠玉の一冊。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やすらぎ
189
どんなに練習をして、譜面通りに弾くことができたとしても、奏でることのできない音色がある。朝になっても光の当たらないヴァイオリン、その美しいサウンドホールはなぜか塞ぎ込んでしまう。父からの言葉に苦しみ続ける青年と窓から見つめる少年、モノクロの物語。葛藤と抑圧。何のため、誰のために、この音を繰り返しているのか。共鳴する未来もないのに。音楽家の孤独。聴こえなくても響くものがある。漆黒の闇で探り当てた微かな音色は伝わっていく。失われることなく残っていた、ありのままの感情に光が灯る。ガブリエル・バンサン晩年の作品。2023/08/19
☆よいこ
94
デッサン画と、口数の少ない主人公のモノローグで綴られる物語絵本。窓辺でひとりヴァイオリンを弾く青年。窓からのぞき込む少年。青年は父親からの手紙に傷つき絶望したりもする。それでもヴァイオリンを弾き続ける。引っ越した青年を追いかけてまでヴァイオリンを聞きたい少年。バイオリンを弾き続けると、やがて多くの人が聞きに訪れるようになる「わしらのためにひいてくれとるんだよ」青年は父親の言葉と決別し、少年と言葉を交わす▽ヴァイオリンの音色が聞こえるようです2022/11/01
kanegon69@凍結中
94
本作はヴァイオリニストの青年の繊細な内面を見事に描いています。劣等感、重圧、焦り、自己嫌悪を抱える様子、そして窓からひたすら眺める少年のおかげでやっと父親の期待から決別し、自分なりの人生を発見することができるようになる様子、バンサンのデッサンでその心の動きが緻密に読み取れます。本作はたまたまヴァイオリニストの話になっていますが、この心の葛藤の様子は、あらゆるプレッシャーを受けている人にも響くのではないでしょうか。悩み苦しみながらも心を解放していく様子が素敵だったと思います。素朴なデッサンが心に染みますね!2019/12/21
Hideto-S@仮想書店 月舟書房
85
父の呪縛に苦しむヴァイオリニスト。コンクールや名声を期待する父は、彼のことを「見掛け倒し」と詰る。いたたまれない気持ちに苛まれながら部屋で楽器を奏でるが、その音色は外を歩く人々の足を止め、笑顔にしてくれた……。必要最小限に抑えられた言葉。嘆き、怒り、哀しみ、驚き、喜び……モノクロームの線が人間の感情を見事に描き留める。2001年1月初版。前年の9月に作者は死去している。日本版オリジナルで出版されたガブリエル・バンサン晩年の名作。2015/12/26
s-kozy
78
これは絵の力だ。素晴らしい絵本。これがうちの本棚にあったことが感激。絵の力。言語で表現できることは限られている。絵の力。2017/02/06