内容説明
バンサンが見つめる終焉の光と影。一世を風靡した歌手ジャック・ブレルのシャンソンに、バンサンの絵筆が新たな息吹を吹き込んだ。現代シャンソンの旗手だった、ジャック・ブレルの『老夫婦』に感銘を受けたバンサンが、その歌の世界に渾身の力をこめて挑戦し、絵にした一冊。生きること、老いることと死を、みごとに一冊に籠めてみせる。人生の旅路のはてを描いて、人それぞれに迫る。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kanegon69@凍結中
81
シャンソン歌手ジャック・ブレルの「老夫婦 Les Vieux」の歌詞にガブリエル・バンサンが味わい深い絵をつけています。実際にこの歌を聴きながらバンサンの絵と歌詞を眺めると、じわぁーっと入ってきますね。老夫婦の悲哀がとても感情に訴えてきます。フランス人ぽいなぁと素敵に思ったのが、「お金もなく惨めで夢もないが、思いやりがあるばかり」、「香辛料とラベンダー、こざっぱりした匂いとともに昔の言葉が行き来する」という歌詞とバンサンの絵。フランス人の C’est la vie という人生観を表しているかのようです。2019/12/24
クリママ
61
ジャック・ブレルのシャンソン「老夫婦」の歌詞をバンサンが描いた本。粗削りなデッサンに影をつけただけの色彩。「ずっとパリ気質でやってきたつもりなのに、いつの間にやら、もとの田舎暮しにもどっていてー」日本ではなく、フランスの老夫婦の姿。「…もうゆめもなく、思いやりがあるばかり。」「…しわだらけのふたりの世界は、あまりにもせまくー」「…ある日、眠りにつくばかり。永い永い永遠の眠りに…。」「どちらかが死んで、どちらかが残る。」人生の旅路の果て、その静けさ、哀しみが、バンサンの絵から立ち上ってくる。2020/01/24
ジュール リブレ
52
老夫婦というジャック・ブレルのシャンソンにガブリエル・バンサンが美しい線描画の挿絵をつけた一冊。歌詞をそのまま読むよりも、絵がつくことで味わい深くなる。/ジャック・ブレルと言えばブリュッセル。なぜか一軒のレストランを思い出す。確か壁中に彼のポートレート。故郷の偉人だつたのか。ムール貝の白ワイン煮を始めバリエーションが30種類以上あるベルギー🇧🇪料理店。ローカルビールも沢山あったな。懐かしい風景です。2020/03/13
KEI
47
バンサンはジャック・ブレルのシャンソン「Les Vieux」を何度も聴きながらこの本を描いたというので、私も聴きながら荒いスケッチを眺める。共に老い行く末の夢も無い老夫婦の労わりあいながら生きる姿。無情にも時を刻む銀時計が人生の最後の時を刻み続け、テーブルにひとつ残されたカップが表す孤独。老いと死を受け入れる姿がヒシと伝わる大人の絵本だった。2020/02/20
greenish 🌿
32
シャンソン歌手:ジャック・ブレルが歌う『老夫婦』。その世界観に心酔したバンサンが描く、生きること・老いること… ---セピア色に描かれた水彩は、老いた夫婦の人生の経年を如実に物語っています。 夢も会話もなく、互いに目を合わせ古時計の刻む時を憂い、一人残されることに慄く…。一見、胸が塞がれる姿ですが、ブレルの曲を聴きながら改めてこの作品に触れると…そこには、互いへの思いやり・労わりに満ちた空気が流れていることに気づきます。寂寥を伴う"死"を現実的に捉えながら、そこにはバンサンの深い慈しみが溢れているのです。2016/03/26