内容説明
侵入した女は何者なのか―実際に起きた出来事を題材として、現代社会の孤独を描きだす、気鋭の著者の意欲作。
著者等紹介
ファーユ,エリック[ファーユ,エリック] [Faye,´Eric]
1963年、リモージュ(フランス)に生まれる。エコール・シュペリエール・ド・ジュルナリスム(リール)に学ぶ。ロイター通信の記者として勤務しながら、1990年より創作活動に入る
松田浩則[マツダヒロノリ]
1955年、福島県いわき市に生まれる。東京大学大学院博士課程中退。現在、神戸大学大学院人文学研究科教授。専攻、フランス文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
U
39
エリック・ファーユ、2作目。長崎に住む50代の男性シムラは独身で一人暮らし。冷蔵庫のジュースが減っていたことで決定的になった不審感をぬぐうべく、室内に監視カメラを設置すると、映っていたのは見知らぬ女だった…。実際に日本で起こった事件をもとにした本作。ラストが手紙でしめくくられているのが印象的で、前半のシムラの語り(頭の中で考えるあれこれ)も面白い。孤独な二人を追うことで、逆に他者との繋がりについて考えさせられた。解説にもあるが、彼の作品が国内であまり知られていないのは残念。引き込まれて一気に読了。2017/03/09
♪mi★ki♪
29
原爆でも隠れキリシタンの本でもない。以前、独身男性の家で、留守時に食べ物が無くなったりするので隠しカメラ仕掛けておいたら、屋根裏だか押入れに長期間知らない女が密かに生活していて逮捕されたっていう事件があったでしょ?それを元に書かれたフィクション。3/4位わたし=シムラの一人称。典型的な日本の地味で孤独な中年男性。一応近年の本で「ネットサーフィン」なんて単語は出て来るが、凄く昭和。普通にローソンの弁当、サンヨーの冷蔵庫とか出てくるし。こんな違和感無しの本書いた日本かぶれの仏人著者恐るべし。w2017/02/10
夏
28
『プラハのショパン』がとても良かったので、作者に興味を持ち手に取った一冊。結論から言うと『プラハのショパン』の圧勝だった。物語は実際に福岡で起こったある事件を題材にしている。まず、このような事件が本当にあったことに驚いた。これと同じような設定の漫画を読んだことがあるけれど、それも同じ事件を取り扱っているのかもしれない。この作品はフランスでアカデミー・フランセーズ小説大賞を受賞しており、フランスではこの作品も作者も高く評価されているようだ。星3.5。2024/12/27
きゅー
12
日本で起きた事件をもとに書かれた物語。冷えた、ミニマルな視座が心地よい。舞台が長崎ということで登場する日本的なディテールである蝉しぐれ、サッポロビール、コンビニなどの小道具が新鮮に感じられる。テーマは先に翻訳された『わたしは灯台守』と同様に「孤独」だった。自ら求めた孤独、追い詰められた孤独、二つの形の人間の生があり、それらは一見同じに見えるが全く異質なものだ。静けさが物語を覆している。それは声にならない叫びの残響。調和からもっとも遠い場所で、二つの魂が響き合っている。2015/01/05
Voodoo Kami
11
気象台に勤める一人暮らしの中年男は、家の冷蔵庫の中のジュースとヨーグルトが少し減っていることに気づく。隠し撮りした映像には見知らぬ中年女がお茶を淹れている姿。実話をもとにフランス人作家が長崎を舞台に描いた小説。ハリウッドが5分で説明することをフランスは映画1本でという喩えの如く、この本における二人の独白体による叙述も明快に割り切れないものをあくまで静かに言葉を尽くして語ろうとする。私がこの間まで住んでいた町の話だったため、観念性の中に具体的なイメージが強く喚起される不思議な感覚に陥りました。2020/02/03