内容説明
ヨーロッパからの移民、土地を追われるカナダ・インディアン。自然を支配する西欧文明、自然との共存をめざす土着の文化。堅実な妻、奔放な愛人。相反する価値観にひきさかれながら20世紀を生きぬいた祖父の遺稿。その断片をつなぎつつ、孫娘が家族四代の歴史を背景に人間の救済/再生を物語る。
著者等紹介
ヒューストン,ナンシー[ヒューストン,ナンシー][Huston,Nancy]
1953年、カナダのアルバータ州カルガリーに生まれる。英語を母語としてカナダやアメリカ合衆国で教育を受け、二十歳のときにパリに留学、ロラン・バルトに師事する。以後フランスに住み、フランス語と英語の双方で旺盛な創作活動を展開している。1981年のデビュー作『ゴルトベルク変奏曲』以降、多数の長篇小説を発表
永井遼[ナガイリョウ]
1964年、宮崎県に生まれる。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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りつこ
11
渋い…とても渋い作品だ。今まで読んだナンシーヒューストン作品と趣が違っていたので、もしかして別人?と思うほど。カナダ移民二世のパドンが亡くなり、孫であるポーラがパドンの遺した手稿を読み解きながら彼の人生を語る。貧困、暴力、宗教、侵略。パドンの人生は絶望と失意に満ちていて読んでいて陰鬱な気持ちになる。ミランダとのことは家族から見れば裏切りでしかないのだが、不快感だけではなく安堵の気持ちも抱いた。ポーラがこうして物語ることで無念だらけだったパドンは再生したのかもしれない。2013/03/14
hagen
1
苦悩に満ちた時代を駆け抜けたパトンが、この物語の語り部である6歳になるポーラに語る「スカルラッティ・猫のフーガ、ト単調」の逸話は孫のポーラを通して語られるパトンの生き様を象徴している。無機質に上昇するこのフーガの主題が鍵盤上の猫の偶然の歩みが引き起こしたとする伝説。その憂鬱に上昇する音の歩みと、激動の20世紀のカナダを苦渋と失意の中を揺れ動く心情を秘めながら蜷局を巻きながら駆け上がってゆくパトンの人生になぞられている。北米の誇り高き神話を持つ先住民族を襲った歴史の悲劇、私には知るよしも無かった。2018/08/19