内容説明
パリから少し遠く、少し近い郊外の町ルイユで、靴下工場を経営する父のもと育てられた、想像力豊かなジャック少年。自分が、シラミが原因かもしれない謎の病「存在病」にかかった貴族詩人デ・シガールと母との不義の子供であり、自らが貴族であることを疑わない彼は、白昼夢のなかで、さまざま英雄になりかわる。しかし、大人となり、故郷を飛び出した彼の人生に待っていたものとは…。
著者等紹介
三ツ堀広一郎[ミツボリコウイチロウ]
1972年、神奈川県横須賀市生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(文学)。東京工業大学准教授。専攻、フランス文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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かわうそ
11
現実と妄想を自由自在に行き来しながら映像的な表現を駆使して描かれる謎のシラミ小説。言葉遊びやさまざまな仕掛けは恐らく大部分把握できていないと思うけど特に難解な作品ではないので楽しく読めました。2013/10/16
pyoko45
10
とてもよかった!適度に省略された描写と滑稽でどことなくシュールなシーンの連続でもって現実と妄想の間をうだうだと彷徨う夢見心地な感覚が心地よく、あれよあれよという間に大団円に。妄想男のイタい話なのかと思いきや最後は肯定的に落としてきた。登場人物たちに降り注ぐ作者の眼差しはほんのり暖かで陽だまりのなかにいるような感覚がいいなぁ。マジシャンのようにさりげなく繰り出される言葉遊びの可笑しさも健在で、短いながらも内容充実でありました。2012/03/10
erierif
7
空想と白日夢と現実の少年時代から酔生夢死の青年時代。現実とフィクションの戯れが自由に行き来する楽しい小説だった。内省的な男の子が主人公のため華やかさは無いけれど、ザジより日本人に合っているかもしれない。短いながらクノーの面白さがきっちり入り、読後感も穏やかなのでクノー入門にぴったりの一冊だと思った。2012/08/25
兎乃
5
あらゆる無数の人物とその人生を夢想するジャック・ロモーヌ。夢と現実を交錯する空想が渾然となって物語は進み、ある日そんな自分に嫌気がさしてからは、極端に「謙遜」する人間になってしまう。しなやかな言語遊戯とたくさんの仕掛け、そして「シラミ」。とっても、おもしろい。穏やかな陽気さに着地できた。2012/07/08
hiyo07
2
読書中ずっと頭に浮かんでいたのは、映画『ビッグ・フィッシュ』。とは言え、本作の方が遥かに現実的と言える。どちらかと言えばナルシストで高慢な男であるジャックだが、その姿を描写していくと、突き詰めてファンタジックな様相を呈してくるのだ。翻訳に苦労したと言う原文らしいのだが、その苦労が報われるであろうコミカルで言葉遊びに満ちた筆致だった。たぶんに散りばめられた言葉遊びと独特の雰囲気、もちろん映画化されたものは高い評価を受けてはいるが、この方の作品は個人的には文章で楽しむほうが良いな。2012/06/05