内容説明
ぼくはヴィラ・ボルゲーゼに住んでいる。塵ひとつ見あたらず、椅子ひとつ乱れていない。ぼくたちはみなここでは孤独であり、死んでいるも同然だ。―パリにあって住所不定、空腹の日々のうちに綴られたヘンリー・ミラーの自伝的小説『北回帰線』(1934)。主要登場人物とモデルの一覧、最新の調査・研究を踏まえた「解説」を付き。
著者等紹介
本田康典[ホンダヤスノリ]
1938年、熊本で生まれる。1964年、早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。専攻は、二十世紀英米小説。現在、宮城学院女子大学教授
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
293
ヘンリー・ミラーの処女作だが、彼の小説作法からすれば、こうした長編になるのは必然であった。そして、まさしくパリで書かれる必要性もまた強く存したのである。倦怠を他のどこよりも許容し、包み込むコスモポリタンの街、パリ。小説は、そのパリで主人公(概ねはミラーその人なのだろうが)が娼婦たちを相手の自堕落な生活を、まさに自堕落そうに記述してゆく。それがまさにミラーの方法なのだろう。また、この作品でも性的な描写が取りざたされたりもするが、ここで描かれる性は淫靡さを持たず、むしろ限りなく虚無に傾斜してゆくそれである。2016/08/12
Shintaro
55
一言で言えば本作はヘンリー・ミラーが垂れ流した排泄物である。ゴミの中を歩いても、バラの香りをさせるのが文学の技だと思っている。しかし本作からは生ゴミの臭いしかしない。既存の文学のフォーマットを破壊したことはレスペクトに値するが、本作が生み出したものは何だろうか。100ページを超えるところからようやく読めるようになってきた。当時、自称文士はパリを目指した。ゲスな文豪、島崎藤村も姪を孕ませてパリへと逃避した。パリとセックスへの執着。ゲスな作家であるヘンリー・ミラーと偽善者である読者の僕。似合いではなかろうか。2017/03/11
とちぼり元
2
パリ=華やか、でなく狂った屠殺場に集まってきた下水達。いずれは穏やかなセーヌ川へと執着する人生。文房具屋のオヤジか芸術家か。確かに生み出す人間にはハングリーな土壌が必要だと思う。2013/06/02
knk_nkn21
1
ドゥルーズがその哲学をヘンリー・ミラーにかなり負っているということがわかる。2024/04/27
Nakaki Takao
0
エロイ2016/05/11