内容説明
本書に描かれる世界はもはや機能不全に陥った世界である。それを支配するルールは、主人公を望ましいパートナーと結びつける力をすでに失っている。小説の後半、舞台は海辺に移り、そこでプリングルの自殺事件が起こったりもするのだが、死という問題さえもこの腐臭の漂いはじめた世界を破ってはくれない。悲劇はありえず、アトウォーターもスーザンもハリエットもバーロウもソフィもプリングルも、機能不全の社交喜劇の登場人物でしかありえない。一次大戦が終わり、永遠の繁栄を約束されるかに見えた「ジャズ・エイジ」アメリカがひっくり返ってしまった大恐慌の初期の時代に書かれたポウエルのデビュー作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
342
すぐさま想起するのはフィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』だろう。事実、この作品は明らかにそれを意識して書かれていたようだ。ギャツビーは、結局は東部エスタブリッシュメントの輪に入ることはできなかったのだが、そこは幾分かは品位を欠くものの、若いアメリカの活力と輝きに満ちていた。同じような社交界が描かれるものの、こちらは衰退の気配を漂わせ、退廃と倦怠が覆うヨーロッパのそれである。本書の登場人物たちの全てがまだ若い人たちであるにもかかわらずである。しかも、ここは閉じた世界だ。そして、どこにも出口はない。2018/08/30
ケイ
138
大学生~20代半ばのギャツビーなどを読んで理解できなかった頃にこの作品を読んでいたらどう思っただろうか。この若者達の、享楽に耽って退屈をやり過ごすしかない日常を、「だから何なのだろう」と感じて投げ出しただろうか。それとも、そこに身を浸しているのに違和感を覚えたまま、そこしか居場所を見つけられず、情熱的に気持ちを示せないまま手放してしまったものに胸に痛みを覚えるアトウォーターとともに切なくなっただろうか。くだらないのに素晴らしい、そう思える作品。特筆すべきは訳者の小山太一氏だ。2017/01/27
まふ
105
全巻倦怠の世界。両大戦間のつかの間だった不穏な平和の時期、ロンドンの中流市民階級の青年男女が毎日をけだるそうに社交に明け暮れて過ごすだけ。人生の価値、社会の正義を見つけようと目的意識で動く人は皆無だ。訳者の解説ではこれはメリーゴーラウンドのように、似たような人々がぐるぐると相手を探して回っているだけの「社交喜劇」ということらしい。第2次大戦後のヤク、ホモ、レズなどが加わらないだけスッキリ感はあるとはいうものの、ウーン、まさに午前中の人々ではなく「午後の人々」である。G522/1000。2024/05/28
NAO
88
イギリスの上流文化人階級の社交界。世界のたがが緩み始めているからこその、この倦怠感なのか。狂い始めた世界で何をしようとするでもなく、ただ無為に時間を過ごしている都会の文化人たる登場人物たちは、確かにもうすぐ暗い夜が来るとも知らずに午後の倦怠をむさぼっているようだ。フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』を思い起こさせるが、この作品の方が好みだった。2019/09/18
藤月はな(灯れ松明の火)
86
この作品を読んでいて思い出したのが、ギャッツビー作品や『うたかたの日々』だ。両者は煌びやかな生活の中に純粋な者たちの打ちひしがれた哀しみや虚しさ、孤独や将来への不安を描いているが故に共感できる部分もあった。しかし、この作品は徹底して俗物で予見性が浅く、軽佻浮薄な人々、ほとんどがノリで返される会話で構成されている。だが、見えない分、そんな生活が一時的で仮初めでしかない事を匂わせている。共感性がない分、怖い本だ。そして私は、そんな生活と今の不安を押し殺し、気儘に過ごそうとする現代人の生活が重なって見えてしまう2018/03/07
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- 和書
- コズモポリス 新潮文庫