内容説明
絶対への渇望とその不可能性の深淵に、果てし無く雪崩れてゆく近代‐世紀末。この病める意識からの脱出という類例のない試みを生きた男―吉田健一。吉田健一の作品世界に斬新な思考の可能性を見出す4人の気鋭の論者による興奮と幸福のエクリチュール。
目次
奇妙な静けさとざわめきとひしめき
『変化』をめぐる断章
「その日は朝から曇ってゐたですか、」
フイネガンのお通夜
『吉田健一頌』のために
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
渡邊利道
1
新世代の批評家たちによる主に晩年の吉田健一論に、柳瀬訳フィネガンが付録する。丹生谷の論は十八世紀の存在論的連鎖における有限性に自足した存在としての「人間」を、近代の神経症的目的化からときはなつ、「世紀末」の人間としての選択として、その「人間の再建」を見る。中井久夫の精神病理学的論考を図式的な下敷きに用いた刺激的な論考で非常に面白い。四方田は『変化』について差異の算出ではなく同一のものの反復としての「変化』を、松浦寿輝は小説作品での主語-術後関係を仔細に検討してその小説世界の成り立ちを論じる。2017/03/26