内容説明
定説は、潰滅した。一介の書記官だった楚才が、なぜチンギスの頭脳と称されるのか。“記録”の嘘を徹底的に証明し、「モンゴル」という時代の全貌を解明。
目次
1 逆光のなかで
2 屈折した人物像
3 モンゴルへの賭け
4 本当に宰相か
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
崩紫サロメ
10
耶律楚材といえば、チンギス・ハーンに仕えた名宰相として有名であるが、本書はそのイメージを覆していく。そもそもの認識のズレは、東アジアにおいては漢文史料のみを重んじ、モンゴルの公用語であるペルシア語史料をあまり読まないままイメージを作り上げてきたところにある。だが、漢文史料から読み解かれる耶律楚材もまた、これまでの英雄像とはほど遠い、虚栄心に満ちた身勝手な男としか言いようがない。史料を読む、ということについて考えさせられる良書であるが、やや読点が多い。2019/11/26
中島直人
9
(図書館)何もそこまで感情的に耶律楚材をけなさなくてもと感じざるを得なかった。朱元璋が、ボロクソにこき下ろされていることといい、読後感は最悪。このシリーズ(中国歴史人物選)は四冊目で、今まではバランスの取れた高い水準の本との印象だったが、残念。2015/05/02
ピオリーヌ
8
このシリーズは評判が良く、また書評を見る限り、既存の耶律楚材のイメージが覆される内容とのことなので大いに楽しみ。のっけから「ひるがえって」が頻発し杉山正明節を堪能できる。耶律楚材の虚像を剥ぐといった趣で展開されるが、杉山氏の熱量がすごい。耶律楚材の人となりについて「おそらく、狷介で、権柄づくの威張りだけれども、人によくされると、たちまにのぼせあがる、どちらかというと単純な性格だったらしい」あらゆる言葉で徹底的に耶律楚材がやりこめられる。耶律楚材に親でも殺されたのではないかと思うほど。2021/02/07
富士さん
2
退屈な考証が続くのに驚くべきおもしろさ。再読。修正主義と言えばいい意味に響かないですが、どんどんやるべきだと思います。歴史がひとりひとりのものになるまで。現実と空想の区別がつかない現実を受け入れることができないくせに、事実を持ち上げ空想を見下し、白昼夢に暮らす奴らが偉そうに説教するのを見ると反吐が出ます。本書は耶律楚材という人というより、歴史に時に邪で時に無邪気な空想を仮託してきた人たちに対する痛烈な批判となっています。何事も無数の思いが混じり合って伝えられる空想の混合物であることをいい加減学ぶべきです。2014/10/11
いもせやま
2
チンギス・ハンの軍師、モンゴルの中国経営の基礎を築いたと知恵者して名高い耶律楚材の伝記。と言いたいところですが、この本は今までの耶律楚材の虚像をあばくことを目的としたものとなっております。卑怯者で見栄っ張りで、実力不足、それでいてプライドが高い…中国の知識人の典型例は1000年前から変わってないというのは面白いです。中国という歴史の国だからこそ、個人が死後に隠そうとした事実が、それなりの研究者からは、はっきりと分かってしまうというのは悲しいことですよね。杉山先生には、耶律家のその後の話を書いてほしい。2012/02/07
-
- 和書
- 租税国家の危機 岩波文庫