内容説明
昔の男に恐喝された女の窮地を繊細に描く表題作ほか、暗い雰囲気が漂う屈指の名作「妄執の影」など中期以降の傑作6篇に、本邦初訳2篇を収録する。
著者等紹介
ウールリッチ,コーネル[ウールリッチ,コーネル][Woolrich,Cornell]
1903年12月4日ニューヨークに生まれ、1968年9月25日ニューヨークのホテルで死す。64年の生涯に227の中短篇を書いた短篇の名手だが、長篇ミステリも1940年の『黒衣の花嫁』以後18作発表、特にウイリアム・アイリッシュ名義の『幻の女』『暁の死線』でサスペンスの巨匠としての名声を博した
門野集[カドノシュウ]
1962年横浜生まれ。一橋大学社会学部卒業
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
星落秋風五丈原
19
事態の悪化に伴い雲を抑えられなくなってゆくフランシス。 「いつもと同じ夜」と言いながら、月と星の状態を変えていく。この二つの文のリフレインにより、読む側に 「ああ、何かが変わっていく。何かが起こるんじゃ。」という不安感が高まってゆく。 サスペンスの糸がぷつっ、と音を立てて切れるのはいつか。 その時彼女の上に輝くのは一体何か。気持ちもページを繰る手も加速した後に訪れるのは何とも皮肉な幕切れ。最後も、月と星の文で切れ味鋭く締めている。ウールリッチ屈指の好中篇である本作他、本邦初訳2篇を含む全8篇を収録。2003/08/08
藤月はな(灯れ松明の火)
19
表題作は不倫のツケを支払うことになってピンチになった妻にとって判明した真実が怖いです。生きているのも不思議なくらいの罪を重ねたがその殺人では無実である人を自分が死刑台に送り込んだ事実と自分の不実と考慮の至らなさが引き起こした殺人の真実を秘することが彼女の罰になったのかもしれません。過去の殺人を告白されたものの一緒になった妻がどこか導火線が短い夫の言動と殺人、そして大切なものを失ってしまった結末の話も遣る瀬無いです。最後の「パルプマガジン作家」はよくあることを滑稽と自虐を込めて描いているのが印象的でした。2013/01/08
浅木原
3
解説が連城三紀彦ってだけで読んだんだけど、あらやだなにこれめっちゃ面白い。ミステリとして特別優れてるわけじゃないし、「復讐者」とかまるで意味がわからないんだけど、文章の波長が自分にジャストフィットでサスペンスに心地良く浸れる。「耳飾り」「妄執の影」「間奏曲」の暗さ、「射撃の名人」「パルプマガジン作家」の楽しさ、「選ばれた数字」「復讐者」の不条理、「女優の夫」の甘い感傷。全て俺のためにあるような読み心地の良さ。これはウールリッチの文体が元々そうなのか訳がいいのか……とりあえずこのシリーズ集めます。2015/11/04
刻猫
2
文章の質感と技巧の調和。何事も初期の方が良いと言いがちな自分だけど、これは味わい深いと感じた。2015/03/26
nightowl
2
解説でも書かれているように暗く、自伝から抜粋された文章がウールリッチらしさに溢れひどく悲しい。不安定な心情描写が冴えている。「パルプマガジン作家」が無ければ気持ちが落ち込んだままになってしまうところだった。