内容説明
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻によって、冷戦後の協調的な国際環境は消滅し、大国間の競争が復活した。「現状変更」を図る中国に対して、日本の大戦略は「現状維持」であり、この戦略目的の非対称性に日本の勝機がある。仮に抑止に失敗して戦争になっても、海上において状況を膠着化できれば、世界中に展開する米軍の来援が期待でき、有利なかたちで戦争を終結できる。ネットアセスメント分析とシナリオプランニングの手法を用いて導き出された「統合海洋縦深防衛戦略」を初めて明かす!
目次
第1章 戦略はなぜ必要か?
第2章 戦略はなぜ失敗するか?
第3章 「大国間競争」時代の戦略上の課題
第4章 大国間競争時代の「日本の大戦略」
第5章 将来の戦争をイメージする
第6章 これからの日本の防衛戦略
第7章 統合海洋縦深防衛戦略
著者等紹介
高橋杉雄[タカハシスギオ]
防衛研究所防衛政策研究室長。1997年早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。2006年ジョージワシントン大学大学院修士課程修了。1997年より防衛研究所。防衛省防衛政策局防衛政策課戦略企画室兼務などを経て、2020年より現職。核抑止論、日本の防衛政策を中心に研究(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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syaori
67
現在の「日本の安全保障戦略や防衛戦略がどうあるべきか」を論じた本。痛感されるのが、「中国が権威主義のまま米国に対抗する大国として台頭」して尖閣諸島や台湾などで「現状変更」を試みている今日、アジア・太平洋地域の安全保障環境の現状維持を目指すなら日本は現状を維持していてはいけないということで、本書でも当事者として中国との軍事バランスを改善させていくべきことが語られます。それは防衛力=抑止力を強化していくということで、現在の戦略環境の分析や日本が防衛費をGDPの2%にすることの意義など、とても勉強になりました。2023/09/06
南北
48
「戦略とは何か」から説き起こし、台湾有事において日本の取るべき戦略を具体的に提言している。戦闘機や潜水艦などにおいて日本は中国よりも劣勢にあるが、日本は現状維持を目標とすればよいので、現状変更を迫る中国に対しては短期戦で決着しないように膠着状態に持っていけばよいとしている。ウクライナ事変によって、ロシアが国際的地位の低下を招いたことを見れば、中国が台湾有事を近いうちに引き起こすとは考えにくいが、万全の備えをしておく必要がある。本書は文章も読みやすく、戦略論を知る上でも好著だと思う。2023/06/10
Galilei
13
一通り見たが、著者の論理を読み込んで理解するためには、戦略論、国家紛争、戦争思想をはじめ、かなりの知識と資料を蓄える必要があると実感しました。それでも、TVで解説される思考の根幹は十分伝わって来たので、戦火と混とんとした現在の社会情勢を見極めるために、価値ある一冊と思います。2023/03/05
やましん
11
トップポイントで概略だけ確認。概略しか触れていないので、言葉は慎重に選びたいが多分駄書。諸戦略の最上位に位置づけられる「大方針」が「現状維持」と「現状変更」のふたつに大別されるのは、脇に置くとしても現状維持のために選択される下位の戦略が現状維持的かどうかは議論が別れると思った(ある国が、その国にとっての現状維持を果たすために地政学的な現状変更を挑戦する、ことも想定されるため)。各論も初期においては制空権の争奪が中止されるが、大前段として陸・海・空の各システムを統御するためのサイバー上の攻防もあると思う。2024/06/12
Ryoichi Ito
10
台湾有事において,中国の台湾上陸を阻止するための戦略。海洋防衛能力を強化して,中国のミサイル攻撃後の渡洋侵攻を不可能にする。これを「統合海洋縦深防衛戦略」と名付ける。そのためには,宇宙・サイバー・電磁波能力,対艦ミサイル攻撃能力・航空相殺攻撃能力などを強化する必要がある。日本に残された時間は多くない。台湾有事は即日本有事だということを国民の多くはわかっているだろうか。 2023/03/10
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