内容説明
砂漠をさまよい、瀕死の状態でマスクラン村にたどりついたセリム。やがて目覚めた彼は、恩人イブラヒムに少しずつ身の上を語り始める。ヴァイオリンに心魅かれ、夢中で手ほどきを受けた少年の頃。ミリアムとの初恋。そんな日々をよそにかつての楽園シラケシュはいつしか全体主義に覆われていく。悲痛な思いを胸に放浪し、ついに魂をぶつけるにふさわしいサン=サーンスの曲を見出したとき、セリムに命を賭したヴァイオリン演奏の晩が訪れる。『囀る魚』のセシェがおくる魂の音楽小説。
著者等紹介
セシェ,アンドレアス[セシェ,アンドレアス] [S´ech´e,Andreas]
1968年、ドイツのラーティンゲン生まれ。大学で政治学、法学、メディア学を学ぶ。ジャーナリストであり、新聞社で働いた経験がある。ミュンヘンの科学雑誌の編集者を数年間つとめた後、デュッセルドルフ近郊にある故郷へ戻り、パートナーと田舎に暮らしながら小説を書いている
酒寄進一[サカヨリシンイチ]
1958年茨城県生まれ。和光大学教授・ドイツ文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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きゅー
14
著者はおそらく、アラブの春を念頭にして本書を書いたのだろう。イスラム国家、独裁者による圧政、民衆によるデモなどイメージとして非常につながる。しかし、そうした符牒にもかかわらず本書の根底にあるのは感傷的なファンタジーだ。特に終盤、長年離別していた者が偶然出会ったところから幸福な偶然が続く。最終的に著者は自分勝手にハッピーエンドの大盤振る舞いを提供する。これで読者が感動すると思っているとしたら、呆れるばかりだ。わざわざ「余韻」と題した章でとどめのハッピーエンドを追加するのだから著者の業はあまりに深い。2018/11/12
杏子
14
前半は読みにくかった。詩的な文章、音楽がモチーフになった恋愛小説。サン・サーンスの楽曲など音楽を聴きながら読むのがよいようだった。私も『死の舞踏』を聴きながら、味わった。最後になって、やっと最初の章の場面がわかったが。最後の「余韻」の章に出てきた人物と出来事がよくわからなかった。たぶん私の読み落としと思うけど、何かあったっけ? この作品は今年の緑陰図書の高校生向けに入っていた。そんなに難しい文章ではないけれど。詩的すぎて通じてない部分があるのではないか?と思った。あくまでも個人的にだけれど…。2018/09/26
belle
5
素数蝉の舞い立つ圧巻の季節。生命力の象徴。『序奏』から『死の舞踏』に至って、再び命が生まれる。音楽も政治も愛も砂漠で連環する。ラルゴ、アパッショナート、ピアノ。2018/09/10
Ra
5
音楽小説ということで「囀る魚」とはまた違った赴き。少し楽器をかじった事のある人にとっては、今さら?的な話も多いかもしれない。しかし、詩のような美しい文章。ページ数も文字数も少なめで、軽くおしゃれな読書をした気分。サン=サーンスを聞きながら読むべきだったかも。2018/07/11
kokekko
3
初・アンドレアス・セシェ。ドイツ文学の翻訳といえばこの人という酒寄進一先生が翻訳しているのに惹かれて読む。全体主義の国になってしまった母国の中で、ヴァイオリニストである主人公がベストを尽くす物語。思っていたよりもエンタメ寄りの物語運びだったが、音を響かせるときに膨らませられるのは楽器ではなく自分自身である等、はっとさせられる言葉が多かった。読み始めたらすぐ読み終われる短いお話で恋愛もある。いいお話だった。2023/12/21
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