内容説明
「ある男の病を治してほしいのです。このままでは自殺してしまうでしょう。でも、診察していることにけっして気づかれてはいけません」1882年のウイーン。高名な医師ブロイアーのもとに突然現われた絶世の美女。その病とは絶望。そして患者の名は無名の哲学者フリードリッヒ・ニーチェ。治療を望まない患者を癒すことなどできるのだろうか。あやふやなまま、依頼を引き受けたブロイアーだったが、事件は思わぬ方向へ展開していく。老いや死にたいする恐怖、目的の喪失、自ら選んでこなかった人生にたいする後悔。若い女性への断ち切れぬ恋情。40歳という岐路に立った人間の苦悩と新たな旅立ちを、若きフロイト、ルー・サロメ、そしてニーチェなど、世紀末を彩る綺羅星のような「出演者」を織り交ぜ、催眠療法や談話療法、ヒステリー研究など、当時生まれつつあった心理療法の興味深い側面と共に描き出す。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
紺
2
ブロイアーがニーチェと語り合うことで自分の絶望と向かい合っていく。 人は日常に起こる様々な出来事に気を取られて、生きる意味を考えないまま進んでいく。 しかしひとたび立ち止まればそこには沢山の恐怖が待ち構えている、生きることの意味・老い・死、それらに定められた答えなどなく、人は孤独なままに自分の言葉だけをもってそれらと対峙しなくてはならなくなる。2013/01/20
ヤスミン
0
ニーチェの思想の深さがこの作品と相俟ってより実感できるようになっている。これだけの良著が世にあまり知られていないと言う事は残念であると供に少し嬉しくもある2009/12/10