出版社内容情報
少年侍七十郎は殺人事件に巻き込まれ、父親も殺される。父親の仇討を命じられ藩のはずれの地へ向かう。そこは砂金掘りの集落だった。巧妙につくられた藩の支配の仕組みを知った七十郎、危うし。
著者等紹介
上野瞭[ウエノリョウ]
1928~2002。京都市に生まれる。同志社大学文学部卒(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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おたま
51
1974年に出版された、時代劇として書かれた児童文学というちょっとめずらしい形式の小説。時代劇の児童文学というと、何か剣豪の出てくる青春物語・・・と捉えてしまうかもしれないが、これはまったくそのようなものではない。父の仇討ちに向かう七十郎という武士の息子の物語ではあるが、そこに砂金をとる穴の中で働かさせる人々や、片目、片足をつぶされた「一つ目小僧」が登場して物語は思わぬ方向に展開していく。そこで問われているのは、「国」とは何かという大変硬質な問題。それを児童文学の中で問いかける。2025/02/04
ワッピー
24
再再読。城下町の居酒屋で発生した殺人事件は跡形もなく葬られ、事件を目撃して不審な地図を受け取ってしまった落ちこぼれの七十郎にも見えざる手が迫る。突然殺された父親の仇討ちを命じられて行く先は領内奥地にあって、ひとつ目小僧が目撃される鉱山町、三の庄。名前を奪われて鉱山に送り込まれた七十郎は地図を頼りに抜け道から脱出するとそこは代官所の中だった…柳田国男「一つ目小僧」研究に材をとり、長年続く恐るべき支配の構造を提示する。都合の悪いことは隠蔽してなかったことにし、民衆を分断支配する権力の醜さはコロナ禍により⇒2020/09/24
無識者
13
「とろろ」という店に鬼三次というおそろしい侍が現れ、その姿に驚いたおたまは、侍の子七十郎を呼ぶ。鬼三次は、びっき様の政治秘密を知る侍だった。その侍から秘密の手がかりを得るが、店の中で酔いつぶれ、そのまま寝てしまい、深夜に殺されてしまう。また、七十郎の父は鬼三次の死体を発見したことを理由に殺され、秘密の手がかりを得た七十郎も消される対象になる。七十郎は三の庄まで、父の仇討に行かされるが、その道半ばで切られることになっていた。うまく逃げた七十郎がみたものは、被差別集団でお互いに憎しみを作りあう政治だった。2015/09/22
aponchan
12
息子の本棚本。表題に惹かれ、どんな内容なのかと関心を持ちながら読了。息子は読んでいないこと明白。読んでみると、なかなか組織と個人の生き方、理想と現実の違い、生きていくことの難しさ、意味等々、大人が読んでも色々考えさせられる内容だった。自分自身もサラリーマンとして組織と自分の折り合いや理想と現実などを想起しながら読むこととなった。2020/02/23
min
5
お侍が国を統治する時代を背景に人間社会の不条理を描いた物語。 主人公は馬の世話係の下級武士の息子で、母を亡くし父と二人暮らし。心を許せる唯一の存在は、城下で母と居酒屋とろろを営むおたまちゃん。その居酒屋とろろで起こる謎の殺傷事件を契機に、お侍が統治する、決して表向きには明るみならない世の中の暗部を知ることになった主人公の命がけの活劇。 読後は悪くないけれど風刺が強烈。 そして、多くの人に読んで欲しい名作。 見えない犠牲とどっちつかずの多数の人間で世の中は成立しており、それは現代も同様で深く考えさせられた。2020/08/12
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