出版社内容情報
『アメリカ学会会報』No.177 2011年11月 書評より 評者:田宮晴彦
ロバート・モリスは財務総監として独立革命末期の連合議会財政の再建に取り組み,一定の成果をあげた人物である。しかしながら,(・・・)1790年代には投機の負債により投獄されるなど,後に不遇の生涯を送った。そのため,合衆国初代財務長官アレグザンダー・ハミルトンに比べ,その人物・政策に関する評価は決して高くない。
本書は,そうしたモリスによる財政構想が,実はワシントン政権下のハミルトンに受け継がれ,「ハミルトン体制」によって結実した,という政策構想の連続性を明らかにしたものである。・・・(中略)・・・
「後発国アメリカにおける資本主義の原始的蓄積過程」を明らかにするという分析視角は古典的ではあるが,本書が田島恵児氏の「ハミルトン体制」研究の流れを受け継ぎ,建国期財政史に正面から取り組む極めて重厚で骨太なものであることは間違いない。建国期合衆国史を学ぶ後進にとり,極めて貴重な一冊である。
『社会経済史学』第77巻第4号 2012年2月 書評より 評者:須藤 功
本書は,アメリカ独立革命の末期,連合会議財政の再建の責任者として財務総監に着任したロバート・モリスの財政政策を分析し,初代財務長官アレグザンダー・ハミルトンに受け継がれて「ハミルトン体制」に結実したことを明らかにしようとしたものである。(略)
モリスは財務総監就任前の軍需物資調達業務で財を成したこと,財務総監職就任の条件としてビジネスとの兼務を認めさせたことから,しばしば公職と私的利害との混同を批判されてきた。こうした批判を含め,本書はモリス財政の意義と限界を詳細な史料によって検証する。・・・中略・・・
ところで,1世紀も前にチャールズ・ビアードが合衆国憲法制定を推し進めた主要利害は公債所有者であったと指摘して以来,論争はなお続いている。本書は,モリス財政の分析を通して改めてビアード説を指示する結果となった。モリスが「共和主義者」であったか「自由主義的共和主義者」(アップルビー)であったかについての検討は本書の課題の外にある。しかし,独立革命期の財政家としてモリスが類い稀なるアイディアと才能を発揮したことは,本書が見事に描いている。(略) とはいえ,疑問の残る点もいくつかある。(略)
言うまでもなく,これらの疑問や無い物ねだりは本書の高い実証性に由来している。本書は独立戦争期の財政金融政策史研究の空白を埋め,モリス財政をハミルトン財政に接合した貴重な研究成果である。
内容説明
独立革命末期の連合会議財政再建のために登場した財務総監ロバート・モリスによる財政政策構想がワシントン内閣の初代財務長官アレグザンダー・ハミルトンに受け継がれ、「ハミルトン体制」によって結実した、というこれまで重視されなかった政策構想の連続性を明らかにする。
目次
課題と視角
植民地経済の発展
第1編 連邦共和国政府形成の動き(モリス財政政策;モリス国立銀行政策;モリス「オランダ借款政策―アムステルダム金融市場での起債」;モリス「新貨幣制度に基づく国立造幣局に関する報告書」の分析;モリス「公信用に関する報告書」の分析;中央政府租税案への反対;いわゆる「危機の時代」)
第2編 連邦共和国政府の成立(ハミルトン体制の意義と展望;ハミルトン「国立造幣局に関する報告書」の分析;第1次合衆国銀行と州法銀行―マサチュセッツ銀行を中心にして)
著者等紹介
松本幸男[マツモトユキオ]
1948年大阪府生まれ。青山学院大学大学院経済学研究科博士課程単位取得後退学。現在、静岡産業大学経営学部教授。専攻はアメリカ経済史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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