出版社内容情報
「北海道新聞」2008.2.10 書評より
社会保険庁の年金記録や、厚生労働省の薬害記録への対応などからも明らかなように、公的な記録に対する国の管理体制はあまりにも問題が多い。北海学園大教授で、国立公文書館特別参与を努めている著者が、公的な機関における記録の管理や保存の実情を明らかにするとともに、公文書館のあるべき姿を問いかける。
『歴史学研究』2009.7号書評より(評者:西木浩一氏)
(前略)アーカイブズとは何か:この点についてもっとも端的に述べられている箇所を引用する。「アーカイブズは何かというならば,開かれた構造を維持・保障していくために組織が営んだその諸活動を支えた知的な生産物を体系的に次の世代に伝えることで,組織を効率的・合理的に運営し,組織に活力をもたらすための管理された情報,あるいは資源としての情報を司る機関,知と情報を担うインテリジェンスの府ともいうべきもの,と私は考えます。」(17頁)・・・略・・・著者の要約をさらにまとめるならば,それは,①組織・社会構造とは常に変化していくものだという感覚の共有,保障,②そうした変化が構成員一人ひとりの活動と相互作用の直接の結集であるという確信,すなわち自らが統治者だという信念をもつこと,③権力と権威というものは不安定であり,相対的なものだという意識,④変化を秩序づける永遠の価値への信念,以上の4点となる。このような要件によって成り立つ「開かれた構造」を維持し保障していくために大きな役割を占めることが,アーカイブズに問われている責任ではないか。このことが大濱氏のアーカイブズの哲学の基礎に据えられている
のである。・・・略・・・これまで大方の歴史研究者が抱いてきた古文書保存の場としての文書館・公文書館像とは異なるアーカイブズ像が明確に示されている。・・・略・・・歴史学に関わる者に今求められるのは,国民・市民と公共性の担い手である組織との関係史において,画期的な変革のチャンスが訪れている,その歴史的意義を認識することではないだろうか。本書刊行のタイムリーな意義もまさにこの点に存在していよう。・・・略・・・本書は,歴史研究者として,アーカイブズ関係者として,そして一市民として,それぞれの立場から「記録の管理と保存の哲学」を見つめ直すのに最適な書ということができる。
『アーカイブズ学研究』No.10(2009.3)書評より(評者:高野修氏)
この書物は,大濱氏が独立法人国立公文書館理事として関わった専門職員養成課程等の諸研修会や,関係機関における講演や関係する雑誌上に寄せられた論考を纏められたものであり,これからアーカイブズに携わろうとする者の必読書として,時宜に叶った好著である。しかも本書はこれからアーカイブズに携わろうとする者にとっては,誠に丁寧な内容かつ文体であり,本書から得るものの大きいことを最初に申し上げておきたい。全体の章の構成は以下の通りであるが、読者は関心ある章から頁をめくられて読まれることをお奨めする。
以下略
『メディアと社会(名古屋大学大学院言語文化研究科)』創刊号より(2009.3.31) (評者:山本 圭)
今日のアーカイブズ科学は,国際公文書会議が2008年に6月9日を「国際アーカイブズの日」と定めたことか
ら窺い知れる様に,多くの注目を惹くものとなりつつある。アーカイブズとは,主に過去の文書の記録と保
存を目的とする行為とその諸施設のことであるが,昨今においては,音声資料を蒐集・保存するデジタル・
アーカイブ,さらには縦横無尽に日々生産され,消滅していくウェブ・サイトを蒐集するウェブ・アーカイ
ビングなど,その対象は広い。本書はこのようなアーカイビングに纏わる新たな動向を背景としながら,わ
れわれにとって,もしくは共同体なるものにとって,「アーカイブズとは何か」を今一度問いかけるものと
なっている。その意味で,アーカイブズの重要性を再度強調すると同時に,出来るだけ平易な文章で読者に
語りかけようとする著者の姿勢は,アーカイブズに関する意識が極めて希薄な我が国においては特に貴重な
ものであろう。・・・略・・・本書が提起している論点は,民間企業アーカイブズ,大学アーカイブズのあ
り方と意義など多岐に渡る。それらはいずれも等しく重要なものではあるが,その背景にある著者の確信は
一貫したものである。すなわち,「国家の営みをわれら一人ひとりが統治の主体者として検証することが,
明日を現在よりもよりよき社会にしうるのだという強き思い」であり,われわれがアーカイブズを己のもの
にすることによって,現在の閉塞状況を打開するチャンスが生じるとの信念である。したがって,アーカイ
ブズは埃に塗れた過去の文書のみにかかわるだけではない。そうではなくジャック・デリダが指摘している
ように,「それは未来の問い,未来それ自体の問い,明日への応答の,約束の,責任=応答可能性の問い」
(Jacques Derrida, Archive Fever: A Freudian Impression, trans. by Eric Prenowitz, Chicago: The
University of Chicago Press, 36) なのである。そうであればこそわれわれは,「アーカイブズとは何か」
について,今一度思いをめぐらす必要があるのであって,本書はまさにそのような「アーカイブズへの眼」
をわれわれが持つことを強く要求している。
目次
1 国家を問い質す場(日本の公文書館―現在、問わるべき課題をめぐり;公文書館の責務と使命;情報保存の現在―未来への扉)
2 土地の貌たる器(貌としてのアーカイブズが問われること;記録を残す営み;現在社会と公文書館;証としての記録―知の遺産を活かすために;地方文書館の課題と使命)
3 知と情報の府として(企業アーカイブズの世界;大学アーカイブズが問われること;アーカイブズ・図書館・博物館―真理がわれらを自由にする;おわりに―アーカイブズが地に根ざすために)
著者等紹介
大濱徹也[オオハマテツヤ]
1937年周防大島に生まれる。1961年東京教育大学文学部卒。文学博士(東京教育大学)。現在、筑波大学名誉教授、北海学園大学教授。独立行政法人国立公文書館特別参与(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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