出版社内容情報
「週刊読書人」2008.5.16の書評より
オスマン帝国の侵攻を撃退したウィーンは、イスラムに対するキリスト教ヨーロッパの前線ではあった。しかし音楽を別として、歴史上ウィーンがヨーロッパ文化の前衛に位置したことはない。唯一「例外的」にウィーンが光彩を放つのは19世紀末から両大戦間期にかけてである。フロイト、ホフマンスタールにシュテファン・ツヴァイク、ヴィトゲンシュタイン、マーラーにシェーンベルクの名をあげれば十分だろう。しかも、彼らを含めて当時の文化創造者の多くがユダヤの血筋をひく人びとだった。この事態をいかに解釈すべきか。日本でも注目を集めたショースキーの『世紀末ウィーン』がこの事態に周縁的な意義しか与えなかったことを批判し、世紀転換期のウィーン文化は、担い手においても内容においても優れて同化ユダヤ人の文化であったと言い切ったのがベラーの本書である。・・・中略・・・ベラーによれば、ウィーンにおいて歴史上一度かぎりのものであった彼らユダヤ文化人の存在こそ、当時のウィーンを「例外的」に創造的にしたのである。表題の1867年はオーストリアのユダヤ人が法的平等を得た年であり、1938年はオーストリアがナチス・ドイツに併合された年に他ならない。
・・・後略・・・
目次
世紀末ウィーンとユダヤ人問題
第1部 ウィーンのユダヤ人を解析する(世紀転換期ウィーンのユダヤ人とは?;分野別にみるユダヤ人の活躍;社会的背景;教育と職業)
第2部 ウィーン文化とユダヤ的伝統(ユダヤ人精神は存在するか;伝統からの距離;教育―同化への唯一の道;倫理主義と個人主義;啓蒙の時代;ドイツ文化とユダヤ人;ウィーンの現実;反ユダヤ主義;アウトサイダーの倫理)
「世紀末ウィーンのユダヤ人」という問題領域
著者等紹介
桑名映子[クワナエイコ]
東京大学教養学部教養学科卒業、同総合文化研究科修士課程修了、同研究科博士課程単位取得退学。2002年、カリフォルニア大学バークレイ校Ph.D.(歴史学)取得。現在、聖心女子大学文学部准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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