内容説明
父の帰りを持つ母と娘と息子、だが時間が過ぎても戻ってこない。この些細な出来事をきっかけに、父が作り上げたものはもろくも壊れる。緊迫した筆致で描く傑作。
著者等紹介
ヴァンデルベーケ,ビルギット[Vanderbeke,Birgit]
1956年、ブランデンブルク州のダーメに生まれる。1961年家族と共に西ドイツに移住。フランクフルト大学で法学とロマンス文学を専攻。1990年『貝を食べる』でデビュー、インゲボルク・バッハマン賞を受賞。他にはクラニッヒ文学賞(1997年)やバート・ガンダースハイム市のロスヴィータ文学賞(1999年)を受賞した『アルベルタの恋人』(1997年)など6作。現在は南フランスのウズで作家活動を続けている
吉田文子[ヨシダフミコ]
1972年、東京大学大学院人文科学研究科独語独文学科修士課程修了。1979~1981年、ケルン大学に学ぶ。現在、専修大学非常勤講師。訳書に『シューマンの歌曲をたどって』(共著、白水社)ほか
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感想・レビュー
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きゅー
1
専横的な父の帰宅を待つ家族三人の会話がページを満たす。 何事も起こらず、ただただ会話が続くうちに、抑圧に対する不満が少しずつ会話に溶け込んでいく。 あの時誰かがテレビをつけていれば、私たち三人の会話は違ったものになっていただろうと、話者は何度も口にする。 その時テレビをつけていれば、彼らはベルリンの壁が崩壊するのを目にしただろうし、それはやはり抑圧からの開放なのだ。
madhatter
1
父親のためだけに用意された貝から、父親を中心とした家族の歪みが浮き彫りになってゆく。ただ、それは比較的早いうちに明らかになるので、残りは他人の愚痴や悪口を聞かされ続けているような、嫌な気分になる。何が起こる訳でもなく、その場の意識の流れを描写して、父親の横暴さをただ暴露してゆくだけで、工夫も何もない。ひたすらイヤな流れのままで単調だ。むしろ、父親の姿を通じて、その他の家族の姿が透けて見える方が興味深かった。母親とか、苦労しているのはわかるが、自己保身のために子供を犠牲にしてないか。2010/10/13