内容説明
現実が現実であるのは人々が暗黙の裡に信じている了解事項の集合のせいであって、…すべてを逆手にとって現実を変える。日本に滞在中に千葉県の九十九里浜で書かれた、現実と幻想が交錯するマジック・リアリズム。
著者等紹介
カーター,アンジェラ[カーター,アンジェラ] [Carter,Angela]
1940年、イギリスのサセックス州イーストボーンに生まれる。ブリストル大学で英文学を学び、1966年に『シャドウ・ダンス』で作家活動を始めた。第3作の『さまざまに感じる』がサマセット・モーム賞を受賞。その賞金を手に1969年に来日し、2度の一時帰国をはさんで1972年まで日本に滞在した。執筆活動は、小説をはじめとして戯曲や脚本、詩、評論やエッセイ、子供向けの本など幅広い。おとぎ話の翻訳も手がけ、執筆活動のかたわら、カーターは英米の大学でも教えた。1992年肺癌のために死去
榎本義子[エノモトヨシコ]
1942年神奈川県生まれ。早稲田大学文学部卒業。ニューヨーク市立ブルックリン・カレッジ修士課程修了。フェリス女学院大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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HANA
69
難解。幻想と現実の境界を壊す装置を作ったホフマン博士。主人公は「大臣」の命により彼を探すが…。という発端から博士を追う主人公の行程を描いているのだが、その道中出会うのが奇妙な風習を持つ河族、サド侯爵的な趣を持つ「伯爵」にケンタウロスと、何れも一筋縄ではいかないというか異常な旅路。最初は暗喩かと思い意味を探りつつ読んだのだが、とても無理と諦めて小説を読むだけに集中する。マジックリアリズムというと現実の中に幻想が侵入してくるイメージだが、本書は全てが幻想。博士が装置を作る以前から境界は壊れていたのではないか。2024/06/21
ヘラジカ
39
ベアトリーチェの如くアルバティーナに導かれるまま、ゴシック・ロマンスからギリシャ神話的世界へと渡り歩き、冒険譚のようにホフマン博士へと導かれる混沌の旅路。性別・人種・時空・虚実、これらが混淆して展開される物語は酔いの感覚をもたらすほど上下左右に揺れ動く。これ以降に書かれる作品の力試しかのような満載ぶり。序盤は率直な小説的面白さを備えた話も見られ『新しきイヴの受難』ほどのカオスはなかったが、伯爵の登場する辺りからあのエログロ・マジックリアリズムが炸裂して、以降は読むのが非常に疲れた。2018/12/13
香菜子(かなこ・Kanako)
33
ホフマン博士の 地獄の欲望装置。アンジェラカーター先生の著書。どことなく不思議で惹き込まれる内容の一冊です。本書内でホフマン博士が開発した”地獄の欲望装置”のような装置が現実社会でいつか本当に開発される日もそう遠くはないのではないかと妄想してしまいました。アンジェラカーター先生の小説家としての凄さを感じられる良書です。2018/12/28
スターライト
10
かつてサンリオSF文庫で刊行が予告されながら、陽の目を見なかった作品。主人公の名前デジデリオは英語のdesireに相当するイタリア語から来ているらしく、作品の随所にさまざまな人物のdesireが顔を出す。そもそもホフマン博士が発明し、都市を崩壊させる装置自体彼のdesireの具現化に他ならない。人間の原初的なdesireである性欲が大胆な形で(あるいは悪夢を見ているかのように)現れる展開は、問題作にふさわしい。作者カーターは、日本滞在時に本書を執筆したらしく、そこでの見聞も反映されている。2019/04/22
まんだむ
1
アンナ・カヴァンの「氷」とジェフリー・フォードの「白い果実」を思い出しながら読んだ。ホフマン博士を殺す任務を受け、その娘のアルバティーナに会いたいと思いながら冒険をするデジデリオ。河族の話も良かったけれど、欲望の軽業師の、序盤の幻想的な描写が後々の現象にリンクしてくるのは圧巻。そして、最後の章のデジデリオの落胆は、それまでの、マジックリアリズムを楽しみながら読んでいた読者にも向けられているのかな、とも思った。ほら、欲望まみれの世界も良いものだろう?ってホフマン博士に笑われてもいるような。2019/01/20