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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
111
カミュの『異邦人』と重なる。ロシアで反革命軍に属し亡命したウラディーミルは、植民地に暮らすフランス人ムルソー同様に本国と切り離された孤独な根無し草だ。南仏とアルジェリアの太陽に照らされて下層民として暮らしながら、現地人と完全に同化できない自分に苛立っている。その苛立ちが爆発し殺人を犯した時、2人とも心から解放され幸福な気分を味わう。ムルソーは憎悪に包まれて処刑されるのを望み、ウラディーミルは寒い北国で極貧の逃亡生活を送るのに満足する。理想も希望も祖国もない男の宿命こそ、カミュとシムノンが描きたかったのか。2025/07/13
maja
24
パプリエ夫人所有のヨットの船長で愛人でもあるウラディミール。意地の悪さがある夫人と、いい加減な取巻きとの酒に明け暮れる日々を過ごす彼は、夫人の娘に対しての承認要求が発端となって同郷の友を陥れる。純朴なブリニを追放したことで次第に自分の内に向かっていくが矛先は夫人へと向かっていく。自己中心で自己完結していくウラディミールといってしまえばそれまでだが、そこはシムノン、層を重ねるようにじっくり彼の悲哀を浮かびあがらせる。ワルシャワ行きの列車で見知らぬ乗車客相手に束の間華やぐ一面が印象に残る。2025/06/19
bapaksejahtera
16
メグレ作品の一方、文学的心情発露から発表し始めた「硬い小説」。この作品群を採上げるシリーズ。「月射病」よりは本作の方が良い。ロシア革命で家族が崩壊し、各国を流れ歩いて南仏に辿り着いた男は、同地の金持ちの老女の男妾の如く暮らす。ロシアから共に流れてきた少し年下の友人とのロシア語を使った生活に唯一和みつつも、酒まみれの生活に浸る。男はふと感じた嫉妬から、窃盗の罪を被せて彼を追い払う。我が行為への悔苦。彼は犯罪を犯し友人を追って出奔する。解説も小説中盤に退屈を感じるとして読者を安心させるが、心に残る結末が待つ。2025/09/01
kurupira
7
偏見になるがロシア的なロシア人が南仏の海沿いで目的なく生きるだけで既に袋小路に入り込んでいるか?カラッとした南仏なのに彼の周りはジメジメっと感じられる。身近な人を殺した事より友人を騙し陥れた方が罪の意識があるのは普通な感覚なのか?その考えに対して違和感を感じなかったので、噂のラスト1行もさほど驚きがなかったのかも。作品全体を通しての行き場の無さ、その空気感の表現から、筆者の力量の凄さが後になって気付かされる。2025/07/24
スローリーダー
5
メグレ警視で知られるミステリ作家ジョルジュ・シムノンのロマン•デュール作品。シムノン原作の映画は観たことがある。著書は初めて。舞台は南仏で主人公は不幸な経歴を持ち、ロシアからやって来た38歳の男。精神的に荒れて…。なかなかにシリアス。ネタバレはしません。《最後の一撃》で一時放心状態に陥った。僕には海外小説は読みづらくて度々睡魔に襲われて中断したが、読み応えのある作品でおすすめ。2025/06/16