内容説明
ヒトラーが独裁者として成り上がっていく過程を、シカゴのギャングの世界に置きかえて描き、ポピュリズムへの警鐘を鳴らした「アルトゥロ・ウイの興隆」。血のつながりもない子を必死で育てる娘グルーシェの姿とにわか裁判官アズダクによる大岡裁きを通し、戦争で荒廃した人々の心の再生(対立の和解)を謳った「コーカサスの白墨の輪」。亡命時代に書かれ、ともに時代と切り結んだブレヒトを象徴する作品。
著者等紹介
ブレヒト,ベルトルト[ブレヒト,ベルトルト] [Brecht,Bertolt]
1898年生まれ。ドイツの劇作家、詩人。「叙事的演劇」を提唱して、劇団「ベルリーナー・アンサンブル」を創設し、二十世紀の演劇に大きな足跡を残す。1956年心筋梗塞のためベルリンで死去
酒寄進一[サカヨリシンイチ]
1958年生まれ。ドイツ文学翻訳家、和光大学教授。シーラッハ『犯罪』で2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第一位を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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どぶねずみ
19
あとがきによると、本書は演出家の白井晃さんが翻訳を依頼して仕上がったものだという。白井晃さんといえば、KAAT神奈川芸術劇場の演出家で『アルトゥロ・ウイの興隆』を再び手掛ける方! この舞台を鑑賞する予定なので、一足先にこの舞台の空気を感じたくて借りてみた本書だが、原作ではなくて40年前にドイツで演じられた舞台の翻訳で、戦後のドイツ、アドルフ・ヒトラーを戯画化した作品。多少難しいと感じるところもあったけど、どっぷり舞台の迫力を感じた。本番が楽しみだ。2021/10/24
きーた
3
(再読)大ファンの草なぎ剛さん主演舞台「アルトゥロ・ウイの興隆」の再演きっかけで読み返し。 戯曲を読むだけだと難しく感じるけれど、観劇した舞台シーンが思い浮かぶからわかりやすい。 訳者あとがきによると、原題を直訳すると「止めうるアルトゥロ・ウイの興隆」となるが今では「止めうる」の省略が多いとのこと。過去にウイ役が田中邦衛さんのときは「おさえればとまるアルトゥロ・ウイの栄達」だったとか。エピローグにある“行動すべきものを学ぶ”ことが重要だと思う。 「コーカサスの白墨の輪」は大岡裁きのような裁判が爽快。2021/11/22
きーた
3
ドイツの劇作家ブレヒトの戯曲の翻訳本。 「アルトゥロ・ウイの興隆」は大ファンの草なぎ剛さん主演舞台観劇時の興奮を思い出す。戯曲にはジェームス・ブラウンの楽曲は当然入ってないけど、上演に向けての指示に記されている“大げさなスタイルで演じられなくてはならない”に合う素晴らしい演出だったと思う。 「コーカサスの白墨の輪」は舞台を見たことがなくてわかりにくさがあるけれど、裁判は大岡裁きと同じだな、と思い爽快。過去に栗原小巻さん松たか子さんがグルーシェを演じているとのこと、2021年上演予定がコロナ禍中止で残念。2020/09/14
takeakisky
0
ルモンド20世紀の100。キャベツでもカリフラワーでもいい気はしたが、最近の本が手に入ったので、こちらで読む。情景の切れ目毎に実際の歴史的事実が挿入される。間接的に情動を喚起するスタイルは、気づかなければ、その効果の半分が楽しめない。大体解説や註を読んで、なるほどねーとか、ほんとかねとなることが多いブレヒトなので、作者自身のこれは有難い。持っている旧訳では巻末にまとめて掲示してあるが、本来の位置にある意義は大きい。しかし、ウイは、田中邦衛で脳内再生されるのだった。2024/09/29