内容説明
誰からも顧みられることのない孤独な人生を送った男が亡くなったとき、町は突如として夢幻的な祝祭の場に変貌し、彼は一転して世界の主役になる「勝利」、一匹の奇妙な動物が引き起こす破滅的な事態「あるペットの恐るべき復讐」、謎めいた男に一生を通じて追いかけられる「個人的な付き添い」、美味しそうな不思議な匂いを放つリンゴに翻弄される画家の姿を描く「屋根裏部屋」…。現実と幻想が奇妙に入り混じった物語から、寓話風の物語、あるいはアイロニーやユーモアに味付けられたお話まで、バラエティに富んだ20篇。
著者等紹介
ブッツァーティ,ディーノ[ブッツァーティ,ディーノ] [Buzzati,Dino]
1906年、北イタリアの小都市ベッルーノに生まれる。ミラノ大学卒業後、大手新聞社「コッリエーレ・デッラ・セーラ」に勤め、記者・編集者として活躍するかたわら小説や戯曲を書き、生の不条理な状況や現実世界の背後に潜む神秘や謎を幻想的・寓意的な手法で表現した。現代イタリア文学を代表する作家の一人であると同時に、画才にも恵まれ、絵画作品も数多く残している。1972年、ミラノで亡くなる
長野徹[ナガノトオル]
1962年、山口県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学院修了。イタリア政府給費留学生としてパドヴァ大学に留学。イタリア文学研究者・翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
103
この数年いくつかの彼の作品を読んでいるのですがこの中に収められている20の短編は殆ど読んでいませんでした。奇妙な味とか少し結末などが不条理というような作品が多いように感じられました。同じような作品を書いているカフカよりも明るい感じがします。「ハリネズミ」の話は読んでいてどこかの国の首相のことが思い出されて笑ってしまいました。楽しい本です。2019/03/13
藤月はな(灯れ松明の火)
95
ヴァラエティ豊かで今の世界と重ねる事もできる不思議で魅惑的な作品集。こういう本が初訳で読める喜びは格別だ。それがどの作品も何かしら心に残るものなら尚更。表題作と「チェバーレ」は獲得とそれを得るたための対価としての代償の物語なのかな。「騎士勲章受賞者~」は自分勝手な理由で猫を殺す者は許すまじ。「変わってしまった弟」は古屋兎丸氏の『少年少女漂流記』での一篇を思い出したり。そして巻末に収録されている「はじめて出逢う世界のおはなしシリーズ」が魅力的すぎて全て、読みたくなります。2018/10/13
HANA
76
ブッツァーティの小説を読んでいると、人生における不条理とかそういうものについて考えさせられてしまう。それはリンゴだったり、大蛇だったり、ペットだったり、様々な形をとっているものの、常に我々の一歩先を陥穽という形で待ち受けている。今回の諸篇もそういう寓話めいた話が満載で素晴らしいの一言。読んでいてきついのはミニ『タタール人の砂漠』とでも言うべき「エレブス自動車整備工場」だが、「変わってしまった弟」「家の中の蛆虫」もまた恐ろしくて満足。まさに人生の不可解さを味わったことのある、大人のための短編集でありました。2018/01/02
えりか
62
ざらついた奇妙な肌触りの本。ブッツァーティいいなぁ。好きだなぁって思う。不安が漂い、不条理が蔓延している。いつどこで、どのきっかけで、わたしたちは不条理な世界に足を踏み入れてしまうのだろう。蜘蛛を殺したから?蝙蝠のような生物を怒らせたから?魅惑の林檎に魂を売ってしまったから?時間の流れに抗おうとしたから?いつでもどこにでもついてくる男を認識してしまったから?抵抗しようとしても、どうしようもないことを、まざまざと見せられる。これがブッツァーティの世界。素晴らしい。短編集Ⅱにも期待。2018/01/05
miyu
43
短篇と言いながらも中篇くらいある作品が多い中(中途半端感があるので個人的に中篇は好まない)、ブッツァーティのそれは本当に短い。「え、なに?もう終わり?!」と寂しく思うくらいに。それでいてこのエンディングしかないなと思わせるのだ。時に幻想的でありながら妙にリアリティを感じる作品は彼の文章の歯切れのよさにも一因するのだろ。そのへんはさすがに一流紙の新聞記者出身だけある。どれも既視感があり特別目新しい内容もない気がするが、同じテーマを取り上げても彼の切り込み方や落とし方はひと味もふた味も違って見える。堪能した。2020/07/10