内容説明
発禁小説『パルチザンの娘』でデビューした女流作家が、歴史に翻弄されて生きてきた人々の日常を描く。李孝石文学賞(韓国)受賞の「風景」などを収録。
著者等紹介
鄭智我[チョンジア]
1965年全羅南道久礼生まれ。中央大学文芸創作学科博士課程在学中。1990年両親をモデルにした長編小説『パルチザンの娘』で創作活動を始める。現在、母校で教鞭をとる一方、故郷の久礼で執筆活動を続けている
橋本智保[ハシモトチホ]
1972年生まれ。東京外国語大学朝鮮語学科を経て、ソウル大学国語国文学科修士課程修了。韓国在住。日本語学科専任講師。韓国文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ともっこ
26
重く辛いが素晴らしい短編集。 全編を通して、老いの哀しみ、辛く厳しい時代を生き抜いた末の倦怠と諦念、心の痛みや苦しみが描かれているが、その中にもどこか優しさや慈愛が漂い、読み手が共感してしまう苦しみに寄り添ってくれるようだ。 特に「風景」「羊羹」「歳月」が傑作。 橋本智保さんの翻訳も素晴らしい。2023/03/26
かりさ
13
誰しも平等にやってくる老いることの悲哀さと残酷さと閉じ込められた時間と記憶を行き来する重たさ。「風景」「歳月」は印象深く、殊更「歳月」は独白に込められた妻の思いが胸迫る。生きることの必然を真摯に描くからこそ優しく包み寄り添う。 歳月に耐えながらそれでも生き、与えられた時間を日々を記憶と共に紡いでゆく。切々とそれを思う。私の読書人生に出会えてくれて心から感謝するほど素晴らしい作品。 〈時間というものは前にだけ流れるんじゃないんだねぇ。気がついたときには昔の記憶が今の時間の中に流れ込んでいるんだよ〉「歳月」2023/04/09
rucho
10
忘れ去られた孤独な辺境で、息子すら思い出せない母と生きる『風景』。いずれ訪れる"消滅"を恐れて逃亡する父親に思いを馳せ、時の重みに耐える娘の哲学的な思索で無常な生の実相を描出す『j消滅』。著者は本書の結びに、日本の読者にむけて”果たして、韓国の小説がおもしろいと思うでしょうか。その中でも私の小説を”と問うています。正直、韓国に純文学があることすら知らなかった無学な私ですが、時代の重みに苦しむ普遍的な人間の生を描いており、登場人物たちの懊悩を自分のことのように身近に感じました。おもしろかったです!2016/02/07
naff1968
4
以降の作品に見られる軽妙さはないけれど、ずっしりと重い、すごく“読ませる“短編が並びます。歴史の残した傷を通奏低音として響かせつつ、描かれるそれぞれの人生。素晴らしい。2025/10/30
sansdieu
0
パルチザンを始めとする韓国社会に置き去りにされた人々を主人として描いた短編集。しかし、右とか左とかそういうイデオロギー上の対立とは無関係に存在する人間の実存の虚しさがテーマなのだと思う。たいへん描写が繊細であり、傍線を引きたくなる絶妙の言い回しがどの短編にもあった。モノローグの文体はスヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチのノンフィクションを思い起こさせるほどリアルである。とくに「純情」に感動した。2025/10/27




