出版社内容情報
アイヌ語地名は、北海道のみならず東北地方の土地に刻みつけられた貴重な歴史資料である。かつてその地に文化を育んだ人びとの生活感覚が記憶され、歴史の波に洗われながら生き続けた、またとない文化財である。地名研究が盛んになりつつある今、地方史研究の重要な資料であるアイヌ語地名に関するこれまての必読文献を一堂に結集して、その地名研究の便宜に供するために、本書は編まれた。秦檍麻呂、上原熊次郎の未刊史料をはじめ、金田一京助、チェンバレン、バチェラー等の地名研究に付け加えて、付録として松浦武四郎"東西蝦夷山川地理取調図"(全28葉・一色刷)を収録。
序 山田秀三
東蝦夷地名考 秦 檍麻呂
蝦夷地名考併里程記 上原熊次郎
蝦夷地道名国名郡名之儀申上候書付 松浦武四郎
蝦夷地名奈留辺志 多気志棲主人
アイヌ語地名の命名法 B・H・チェンバレン執行一介訳
アイヌ地名考 J・バチェラ 中川 裕訳
北奥地名考 金田一京助
北海道駅名の起源 高倉新一郎 知里真志保
更科 源蔵 河野 広道
大日本沿海輿地図蝦夷地名表 伊能 忠敬
アイヌ語地名資料集成について 佐々木利和
解 題 佐々木利和・中川裕
アイヌ語地名索引
別冊
東西蝦夷山川地理取調図 松浦竹四郎
「秋の夜長は地名考」
希少論文8点を収録
十九世相初めの秦檍麻呂の「東蝦夷地名考」、上原熊次郎の「蝦夷地名考併里程考」から、旧国鉄の「北海道駅名の起源」。松浦武四郎、金田一京助のほか、チェンバレン、バチェラーの英文の論考も初訳で網羅し、武四郎の「東西蝦夷山川地理取調図」全二十八枚の複製が付録につく。
北海道地名の研究は、二百年近い伝統と蓄積がある。地名全体の大部分を占めるアイヌ語起源のものに関心を持った秦、上原らがいち早く手がけていらい、優れた業積も多い。例えば、明治期の永田方正「北海道蝦夷語地名解」や吉田東伝「大日本地名辞書」北海道・樺太編、戦後の知里真志保「地名アイヌ語小辞典」、最近の山田秀三「北海道の地名」(北海道新聞社)などがある。
こうした著作は覆刻版、現役版で入手出来るが、今回の資料集の八点は希少本化したり、未訳だったりしたものばかり。とくに秦と上原の業積が初めて活字化されるのは、アイヌ語による語源解釈の出発点を確認する上で意義は大きい。 (1987.8.19 北海道新聞)
スイセン文
アイヌ語地名再生の為に 貝沢 正
アイヌ語地名研究家としてご高名の山田秀三先生が監修された『アイヌ語地名資料集成L』とあれば、専門家はいうに及ばず多くの方が待ち望んでいた本でありましょう。ちなみに二風谷のアイヌ語地名を見ると、幅2キロ長さ7キロの内に57カ所ありますが、これまでにどのぐらい多くの地名が故意にあるいは内側から消され忘れられてしまったことか。この資料集成が陽の日を見ることにより改めてアイヌの生活文化誌である地名が再び見直され、不明とされていた部分が解明されることに期待するものです。アイヌ民族の一人として発刊を祝するのと併せてご推薦申し上げる次第であります。