内容説明
大革命後のカトリック復興期、画家達は過去様式を意図的に利用することで聖なるものの表象を模索していた。だが考古学や民族誌によってもたらされた古代やオリエントの新しいイメージは、次第にそれらを変質させ、ジャーナリズムに代表される受容者は、そこに新たな意味を読み取っていく。聖性の表象という目的ゆえに、他のジャンルにはない独自の様相を示す19世紀フランスの宗教画から、近代美術への新たな視界を切り開く。
目次
第1章 パリに顕れるビザンティン―サン=ヴァンサン=ド=ポール聖堂に見る様式選択とヒエラティック・モード
第2章 オリエント化されるキリスト教世界―テオドール・シャセリオーのサン=ロック聖堂洗礼盤礼拝堂壁画に見る性差と人種
第3章 聖性と写実―レオン・ボナの“キリスト”に見る身体と階級
第4章 幻視としてのイコン―ギュスターヴ・モローの“出現”に見る聖と俗
第5章 モザイクとしての様式―モーリス・ドニの“カトリックの神秘”に見る点描とヒエラティック・モード
補論 明治期「理想画」のモード選択―黒田清輝“智、感、情”の周囲
著者等紹介
喜多崎親[キタザキチカシ]
1960年東京生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程中退。国立西洋美術館学芸課勤務を経て、一橋大学大学院言語社会研究科教授。文学博士。専門は19世紀フランス美術史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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よん
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冒頭の「19世紀の宗教画が、その様式や図像に於いてルネサンスやバロックに生み出されたものを無批判に継承し、繰り返していただけだったとすれば、それは視覚文化的には興味深い現象であるとしても、美術史的に個々の作品を対象に研究する意味は殆どないと判断する。しかし、19世紀の宗教画が過去の単なる模倣でも反復でもなく、様式的には意図的な選択がなされ、図像的には新しい価値観を反映した変化を伴い、それが社会的文脈の中で様々に読み取られていたとすれば、それは美術史の研究対象として無視することはできない筈である。」という箇2013/02/07
O. M.
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19世紀フランスで、キリスト教宗教絵画が、当時の社会事情に影響されて転位していく状況を分析した論文。特にギュスターブ・モローの章は面白かった。良くも悪くも「論文」なので、内容は興味深いものの、文章は堅く、一般にアピールするものではない。2013/02/23
Yosuke Saito
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19世紀フランス宗教画+日本美術の研究書。M. P. Driskelが導入したヒエラティック・モードという概念を展開し、フランドラン、シャセリオー、ボナ、モロー、ドニ、黒田清輝の作品について論じている。2011/11/29
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