内容説明
大工房を構えた宮廷画家であり、外交の場でも活躍したルーベンスは、破格の栄達を極めた17世紀絵画の巨匠である。一方、その世俗的成功は、彼を精神性を欠く通俗的画家と見なす要因にもなった。だが彼は本当に芸術の深みに到達しえなかったのか?その真の姿に画業と政治活動両面から迫る。
目次
第1章 マドリードの『三王礼拝』―描き加えられた自画像(マドリードにおける自作品との再会と描き直し;変更点の確認;宗教的象徴の強化 ほか)
第2章 ルーベンスとティツィアーノ―模倣から競作へ(画家の修業過程における模写と模倣;一六二八年から二九年のマドリード滞在中のティツィアーノ作品の模写;『アダムとエヴァ』 ほか)
第3章 「マルスとヴィーナス」の説話・寓意とルーベンス―『戦争の惨禍』をめぐって(問題の所在;説話テキストとそのイメージ化の方法;説話テキストから著しく逸脱した絵画表現の読解 ほか)
著者等紹介
中村俊春[ナカムラトシハル]
1955年、大阪府生まれ。1987年、京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了。国立西洋美術館研究員を経て、京都大学大学院文学研究科教授。専門は、北方バロック美術(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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PG
3
著者は中村俊春。ルーベンス研究の第一人者だったが今年1月逝去。▶︎伝記ではなく学術色の強い本。本書は著者の博士論文を元にしたらしく、現在開催中のルーベンス展の参考文献にもなっている。そう思うと比較的読みやすい。▶︎本書はルーベンスが外交官、画家として順風満帆の生涯を送った一方で、画家としての内省的な視点に欠けて芸術の境地に到達し得なかったのでは、との誤解を覆したいとの思いで書かれた。著者が記した数多の根拠から、彼が政治的配慮に優れると共に、芸術的模索を真摯に行ってきた勤勉家であるという事が痛い程伝わった。2018/11/08