出版社内容情報
★世界で活発に研究開発される“アイオノマー”! イオン基導入による高分子の高性能・新機能化の発現!
★ 性質・構造から工業材料としての応用,トピックスを含めた新展開までを集大成!
★ 執筆陣は第一線で活躍する“アイオノマー”の権威21名が執筆!
【序】
高分子化学の発展と共に汎用高分子の一部をイオン化することにより性能の改善と向上を試みる発想は50年前より存在した。しかしこのことがアイオノマーとして注目され実際に工業材料として市民権を得たのはデュポン社が商品名サーリンとしてエチレンアイオノマーを市販した40年前のことである。その後今日まで欧米ではアイオノマーの研究及び開発が盛んに行われ,毎年多くの学会が開催されてきた。ゴードン会議のテーマにもなっており,2003年度は米国のニューハンプシャー州で7月に開催されることになっている。
日本ではアイオノマーの研究は比較的少なく,十分な研究活動が行われているとは言いがたい現状と思われる。工業的には三井・デュポンポリケミカル(株)が主にエチレン系アイオノマー(商品名:ハイミラン)を市販している。実際には殆どの化学会社でアイオノマーとは必ずしも意識せず,高分子鎖あるいは側鎖の一部をイオン化することによる高分子の物性の改質が試みられてきたことは想像に難くない。このような点に鑑み,我々はアイオノマー研究会をつくり毎年研究発表と情報交換を行ってきた。昨年(2002年)までに次に示すように15回を数えるにいたっている。研究会は毎回30名以上の研究者,技術者が集まり盛況である。
第1回:アイオノマーの最近の動向 (岐阜大 1988年11月7日) *
第2回:アイオノマーの構造,物性,機能と工業的展望(三井・デュポンポリケミカル(株)千葉 1989年12月6日) *
第3回:アイオノマーにおけるイオン会合体の新展開(名工大 1990年12月5日) *
第4回:アイオノマーの可能性を探る (立命館大1991年12月5日) *
第5回:アイオノマーの高性能化・高機能化の新展開(日本ペイント(株)大阪1992年12月7日 *
第6回:アイオノマーの新しい展開 (第24回中化連特別討論会 岐阜大1993年10月6日)
第7回:アイオノマーの最前線 (姫路工大 1994年11月11日)
第8回:アイオノマーの現状と課題 (立命館大,BKCキャンパス1995年12月4日) *
第9回:解離基を有する高分子の現状と将来への展望 (浜松医大1996年5月30日) *
第10回:21世紀に向けたアイオノマーの基礎的理解と応用展開(岐阜大1997年7月11日) *
第11回:工業材料としてのアイオノマーの新展開(三井・デュポンポリケミカル(株)千葉 1998年7月3日) *
第12回:イオン凝集体構造の制御と材料特性 (山形大1999年11月5日)
第13回:アイオノマーの基礎と材料開発 (長崎大2000年11月7日)
第14回:アイオノマーの電気特性と工業材料への新展開(甲南大2001年11月9日) *
第15回:高分子と金属の複合化による高次構造制御と特性(信州大2002年11月29日) *
第16回:名工大で開催予定
*は高分子学会ミクロシンポジウム
このようにアイオノマーの基礎研究と工業材料としての開発,応用は確実に広がり発展してきている。ここでアイオノマーの基礎と性質さらには工業材料としての応用及びそれらのトピックスを含む新展開について解説したのが本書である。アイオノマー研究会の会員を中心にアイオノマーの権威者に執筆を賜っている。汎用高分子に少量のイオン基を導入することによる改質と性能の向上を試みる発想は大変素晴らしいものである。本書によりこのことをよく伝え,アイオノマーの価値を理解して頂くことに役立てれば望外の喜びである。最後に本書を出版するにあたり,有益なご助言を賜った梶原鳴雪先生(愛知学院大学)及び小林敏幸氏(シーエムシー出版)に厚くお礼申し上げます。
2003年8月 岐阜大学名誉教授 矢野紳一
【執筆者一覧(執筆順)】
矢野紳一 岐阜大学名誉教授 (有)素材開発研究所
池田裕子 京都工芸繊維大学 工芸学部 物質工学科 助手
平沢栄作 元 三井・デュポンポリケミカル(株) テクニカルセンター所長
沓水祥一 岐阜大学 工学部 応用化学科 助教授
舘野 均 三井・デュポンポリケミカル(株) テクニカルセンター グループリーダー
只野憲二 岐阜医療技術短期大学 衛生技術学科 教授
山内 淳 京都大学大学院 理学研究科 教授
辻田義治 名古屋工業大学大学院 工学研究科 教授
西岡昭博 山形大学 工学部 機能高分子工学科 助手
小山清人 山形大学 工学部 機能高分子工学科 教授
南方 陽 浜松医科大学 名誉教授
三春憲治 三井・デュポンポリケミカル(株)テクニカルセンター グループリーダー
陸川政弘 上智大学 理工学部 化学科 助教授
清水哲男 ダイキン工業(株) 化学事業部 基盤研究部 主席研究員
荒瀬琢也 ダイキン工業(株) 化学事業部 樹脂開発部 主任研究員
平岡教子 長崎大学 環境科学部 助教授
横山哲夫 玉木女子短期大学 学長
池田能幸 甲南大学 理工学部 機能分子化学科 助教授
綱島研二 東レ(株) リサーチ・フェロー フィルム研究所 研究主幹
山田幹生 住友ゴムグループ SRI研究開発(株) 商品研究部 部長
川口政広 長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 助手
* 複数項目の重複執筆者は,再度記載しておりません。
【構成および内容】
序 矢野紳一
第1章 アイオノマーの定義、分類と化学構造
1.アイオノマー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 矢野紳一
1.1 定義と歩み
1.2 化学構造
1.3 対イオン
1.4 合成
2.アイオネン型アイオノマー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 池田裕子
3.その他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 平沢栄作
3.1 無機アイオノマー
3.2 熱可塑性高分子-高分子錯体(アイオノマー)
3.3 イオン性高分子液晶
3.4 高分子電解質
第2章 イオン会合体 沓水祥一
1.イオン会合体の形成と構造 ・・・・・・・・・・・・・・・・・19
1.1 Eisenbergのマルチプレット―クラスターモデル一
1.2 Yarusso-Cooperの修正剛体球(液体様)モデル
1.3 Debye-Buecheモデルによる小角領域の立ち上がり“upturn”の解析
1.4 電子顕微鏡による内部構造の直接観察
1.5 原子間力顕微鏡による表面構造の直接観察
1.6 EXAFSからみたイオン会合体内部の局所構造
1.7 ESRから見た会合体
1.8 テレケリックアイオノマー
1.9 ッ素系アイオノマー
1.10 エチレンアイオノマー
2.イオン会合体の転移 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46
2.1 エチレンアイオノマーの転移モデル
2.2 他のアイオノマーのイオン会合体の転移
第3章 物性および機能
1.固体物性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59
1.1 力学的性質 舘野 均
1.1.1 スチレンアイオノマー
(1)スチレン・メタクリル酸共重合のナトリウム塩 P(S-xMANa)
(2)スチレン・アクリル酸共重合のナトリウム塩 P(S-xANa)
(3)ベンゼン環にイオン基を持つアイオノマー PS-xSM、PS-xCM
(4)側鎖長さの影響
1.1.2 エチレンアイオノマー
(1) エチレン・メタクリル酸共重合のナトリウム塩 P(E-xMANa)
(2)イオン基の金属種の影響
(3)2成分からなる金属イオンの影響
1.1.3 ウレタンアイオノマー
1.2 電気的性質 只野憲二
1.2.1 誘電的性質
1.2.2 導電性および帯電性
1.2.3 耐電圧
1.3 磁気的性質―ESR分光法、磁化測定、Mossbauer効果 ― 山内 淳
1.3.1 アイオノマーの磁性
1.3.2 アイオノマーのESR
(1)イオンの孤立状態とクラスター形成
(2)二量体形成
(3)イオンの配位環境の決定
(4)イオンの拡散
1.3.3 アイオノマーの多重共鳴法(ENDOR・ELDOR)
1.3.4 アイオノマーのスピンプロープ法
1.3.5 アイオノマーの磁化測定
1.3.6 アイオノマーのMossbauer効果
1.4 光学的性質―IR、UV、可視、NMR― 沓水祥一
1.4.1 IR
1.4.2 UV―可視
1.4.3 NMR
1.5 収着と拡散・透過 辻田義治
1.5.1 収着
(1)収着機構
(2)ガラス転移への収着の影響
1.5.2 拡散・透過
2.溶融物性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・133 西岡昭博,小山清人
2.1 はじめに
2.2 イオンホッピング(Ion-Hopping)と酸-陽イオン交換(Acid-Cation Exchange)
2.3 単一の金属イオンを含むエチレン系アイオノマー
2.3.1 線形粘弾性(微小変形)
2.3.2 非線形粘弾性(大変形)
2.4 ブレンド系アイオノマー
2.4.1 低分子量酸のブレンド
2.4.2 異なるイオン種を含むアイオノマー同士のブレンド
2.5 おわりに
3.溶液物性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・148 南方 陽
3.1 はじめに
3.2 イオン凝縮
3.3 高分子鎖の拡がり
3.4 溶液の濃度領域と溶媒環境
3.5 低分子塩の効果
3.6 動的性質
3.7 解離基の個性や配置の効果
3.8 非水溶媒中のアイオノマーの物性
4.機能性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・165 平沢栄作
4.1 はじめに
4.2 イオンの持つ機能と高分子の機能の結合による機能性
4.2.1 放射線遮蔽性アイオノマー
4.2.2 感温性アイオノマー
4.2.3 酸素吸収性アイオノマー
4.2.4 ポリエステル樹脂の結晶化促進
4.2.5 熱可塑性高分子―高分子錯体の形成
4.3 高分子中にイオン基が導入されて(アイオノマーになって)初めて発現する機能性
4.3.1 イオンの選択透過・分離機能
4.3.2 アルコール/水の分離機能
4.3.3 気体の分離機能
4.3.4 酸素ガスの選択的吸脱着と変色:酸素ガスセンサー機能
4.3.5 圧力によるイオンの配位構造変化:圧力センサー機能
4.3.6 導電性または非帯電性、温度センサーおよび調湿機能
4.3.7 永久帯電性
4.3.8 反応触媒、反応促進機能
4.3.9 高分子相溶化機能
4.3.10 電界応答機能
第4章 工業材料としての物性と応用
1.エチレン系アイオノマー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・171 三春憲治
1.1 工業材料としての物性
1.1.1 はじめに
1.1.2 合成方法と樹脂構造
(1)合成方法
(2)樹脂構造
1.1.3 エチレン系アイオノマーの諸物性
(1)固体基礎物性
(2)熱的特性
(3)機械的物性
(4)光学性
(5)溶融物性
(6)化学的物性
1.1.4 エチレン系アイオノマーの特性と用途展開
(1)エチレン系アイオノマー基本物性の代表的特長
1.2 エチレン系アイオノマーの工業的応用
1.2.1 包装材料
(1)はじめに
(2)包装材料としての特長
(3)包装材料用途
(4)加工適性
(5)まとめ
1.2.2 成形品
(1)成形品用途例
(2)成形品としての特長
1.2.3 ポリマー改質剤
(1)EVOH改質
(2)PET/PBT改質
(3)PA改質
1.2.4 ディスパージョン
2.フッ素樹脂系アイオノマー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・248
2.1 燃料電池用高分子電解質膜 陸川政弘
2.1.1 はじめに
2.1.2 燃料電池とは
2.1.3 高分子電解質形燃料電池
2.1.4 高分子電解質としてのフッ素樹脂系アイオノマー
2.1.5 フッ素樹脂系アイオノマーの電解質特性
2.1.6 新規高分子電解質
2.1.7 おわりに
2.2 電解膜、分離膜、その他 清水哲男,荒瀬琢也
2.2.1 フッ素系アイオノマー
(1)食塩電解
(2)水電解
(3)有機電解合成
2.2.2 分離膜
(1)廃液処理
(2)除湿膜
2.2.3 その他の用途
(1)高分子触媒
(2)アクチュエーター
(3)ゲル電解質
3.エラストマーアイオノマー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・269
3.1 ポリウレタンアイオノマー 平岡教子,横山哲夫
3.1.1 はじめに
3.1.2 ポリウレタン系弾性アイオノマーの力学物性
(1)PUカチオノマー
(2)PUアニオノマー
(3)PUツビッターアイオノマー
(4)PUアイオノマーのモルホロジーと、そのイオン化度による変化のまとめ
3.1.3 ポリウレタン系弾性アイオノマーへの機能付与
(1)導電性
(2)光機能性
(3)酸素透過性
(4)形状記憶性
(5)耐熱性,難燃性
3.1.4 おわりに
3.2 アイオネンエラストマー 池田裕子
3.2.1 アイオネンエラストマーの特性
3.2.2 アイオネンエラストマーの高次構造と物性の相関
3.3 スルホン化EPDM、クロルスルホン化ポリエチレン 池田能幸
3.3.1 スルホン化EPDM
3.3.2 クロルスルホン化ポリエチレン
4.スチレン系アイオノマー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・299 綱島研二
4.1 スチレン系アイオノマーとは
4.2 イオン基の構造と凝集状態
4.3 粘弾性特性
4.4 誘電的性質
4.5 ガラス転移
4.6 溶融粘度
4.7 密度
4.8 ガス透過率・ガス選択透過率
4.9 吸水率
4.10 熱安定性
4.11 用途展開
(1)選択性透過膜
(2)難燃剤
(3)凝集剤
(4)湿度センサー
(5)帯電防止性
5.アイオノマーブレンド ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・317 矢野紳一,平沢栄作
5.1 はじめに
5.2 相溶性
5.2.1 イオンーイオン相互作用
5.2.2 イオンー遷移金属配位相互作用
5.2.3 イオンー双極子相互作用
5.2.4 イオン対―イオン対相互作用
5.2.5 対イオン相互作用
5.3 工業用途への応用
5.3.1 相溶化剤としての応用:プラスチックリサイクルへの応用
5.3.2 改質剤としての応用
5.3.3 機能性付与としてのブレンドの応用
5.3.4 高性能・機能性新材料創出のためのブレンド・アロイ化
6.特定用途 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・330
6.1 スポーツ製品―ゴルフボールを中心にー 山田幹生
6.2 塗料、コーティング剤 平沢栄作
6.2.1 塗料、コーティング剤用途におけるアイオノマーの役割
6.2.2 塗料、コーティング剤としての工業的応用例
(1)エチレン系アイオノマーの水性ディスパージョン
(2)ポリウレタンアイオノマーの水性ディスパージョン、エマルジョン
(3)ポリイソプレンアイオノマーの水性エマルジョン
(4)アクリル樹脂系アイオノマーによる船舶用塗料(船底塗料)
6.3 歯科材料(アイオノマーセメント) 川口政広
6.3.1 歯科材料の特性
6.3.2 歯の構造と歯科修復用材料に要求される性質
(1)機械的特性
(2)物理・化学的特性
(3)生物学的特性
(4)その他の必要な特性
6.3.3 グラスアイオノマーセメント出現の歴史
6.3.4 グラスアイオノマーセメントの硬化機構
6.3.5 グラスアイオノマーセメントの特徴と問題点
(1)歯質接着性
(2)フッ素徐放性
(3)感水性
(4)機械的強度
6.3.6 グラスアイオノマーセメントの改良
第5章 アイオノマーの今後の展望、あとがき ・・・・・・・・・・350 平沢栄作