出版社内容情報
刊行のねらい
揮発性有機化合物(VOC: Volatile Organic Compounds)とは、常温で蒸発(気化)する有機化合物の総称で、発生源としては、合板、壁紙などの建材や施工時の接着剤、カーテンやカーペットなどの家具調度品、殺虫剤、消臭・芳香剤などがある。
特に、新築住宅やマンションの建築材料などから有害なVOCが発生し、「化学物質過敏症」「シックハウス症候群」といったアレルギー症状を引きおこしている。このため建材メーカー、接着剤、塗料メーカーなど住宅関連資材メーカーはVOC対策品を強化し、対策品の比率が高まっている。
本書は、シックハウス対策の現状とVOC対応製品の開発動向をまとめた。関連業界の方々にご購読を勧めします。
はじめに
近年,室内の空気の汚染が人の健康に影響を与える現象が目立って増え,関連する省庁や産業界では様々な対策が進められている。
1992年に省エネ基準が改正され,環境問題への具体的な取り組みのひとつとして住宅の高気密化,高断熱化が進められてきた。住宅の日射の遮断性と気密性を向上させ,断熱性,防音性がよくなった住宅の供給が年々増加してきたが,そのことが従来の住宅では考えられなかった新しい問題を生み出すことになった。
高気密・高断熱でエネルギー性能を高めた住宅は,同時に室内空気中に放散した汚染物質が滞留しやすい構造となっており,住む人が高濃度の汚染空気の影響を直接受けることになる。高気密住宅は,換気計画とセットで計画されなければならないが,経験の浅い工務店などはその認識が薄かったり,24時間換気システムがあっても居住者自身が換気システムのスイッチを切ってしまっていたり,空気汚染物質の高濃度化という新しい問題に対する知識不足も手伝って,住宅を原因とした健康被害が年々増加してきている。
シックハウスが問題になったのは,1990年代初めの頃である。新築住宅に入居した人が,疲労,頭痛,睡眠効果,めまい,視界のぼやけ,弱視化,皮膚刺激,眼・気道刺激,時には動悸などの症状を示しているのがシックハウス症候群で,当初は新築病などと呼ばれた。こうした健康への被害が問題とされるようになり,国会で,はじめてシックハウス症候群が質問で取り上げられたのは,1996年になってからである。しかし,この時はまだ国としての対策はほとんど取られていない状態であった。国の取り組みが本格的にスタートしたのは1997年に,旧建設・通産・厚生・林野の4省庁で「健康住宅研究会」が発足してからである。以後,厚生省(当時)をはじめとした関係省庁の調査・研究の取り組みが進められ,同時に,関係業界それぞれの独自の取り組みの進み,それらの成果をふまえた施策が次々と打ち出されてきている。
産業界がシックハウス対策を進める上で,重要な意味を持ったのが1998年に厚生省(当時)から示されたホルムアルデヒドの室内濃度指針値である。
ホルムアルデヒドは室内空気汚染物質の中でもシックハウス症候群の主な原因物質とされているが,建材用の接着剤の原料などに大量に使用されているため,安全性の目安となる基準が求められていた。このほか室内空気を汚染する物質は,常温で蒸発する数十種類の有機化合物(揮発性有機化合物:VOC=Volatile Organic Compounds)群であるが,VOCは,合板,壁紙などの建材や施工時の接着剤,カーテンやカーペットなどの家具調度品,開放型の暖房機器,日常使用する殺虫剤,消臭,芳香剤,喫煙などから発生しており,全く使用しない住環境をつくることは不可能である。従って,VOCの室内濃度をどれくらい抑制したらよいのかが対策の課題であったが.ホルムアルデヒドの室内濃度の指針値が最初に示されたことで,この数値が産業界の目標値となり,その基準をクリアする具体的な対策が活発に取り組まれるようになった。
最近,住宅・建材の業界では「ゼロホルムアルデヒド」「ノンホルム」製品などと呼んで,健康仕様をうたった製品が多数供給されてきている。VOCの抑制は使用材料の改良と設計・施工時の換気対策を両面から進められており,ここ数年その対策は大きく前進しているようにみえる。しかし,VOC対策はホルムアルデヒドに止まらない。トルエン,キシレンや木材保存剤など,VOCの問題物質は数十種類に及ぶといわれている。現在,VOCについて数十種類の指針値が示されているが,現状は個別物質の評価をするのが精一杯の状態で,その総和(TVOC)については暫定目標値が示されているだけである。
指針値が示された物質が他の代替物質に置き換わっても,それが新たな汚染の原因になってしまっては対策の意味が薄れてしまうであろう。より抜本的な対策を行うためには,TVOCを一定の濃度に抑制することが必要とされているが,その対策は測定方法を含めまだこれからという段階にある。最近になって,厚生労働省よりTVOCの対策も視野に入れた製品の開発や換気システムの開発に取り組まなければならないという新しい課題が提起されることになった。
今後,年間数種類ずつ個別のVOC物質に対する指針値が追加されることになっており,それにともない産業界の新しい対策も次々と発表されてくるものと思われるが,本書は,1990年代後半からこれまでの国や関係業界の対策の動向と,VOC対策の到達点についてまとめたものである。
2001年11月 シーエムシー編集部
構成および内容
はじめに
第1章 VOCとシックハウス対策
1 室内空気汚染とVOC ………………………………………………… 3
(1) 室内空気汚染の原因物質 ………………………… 3
(2) VOCの性質・用途と健康への影響 ………………… 4
① ホルムアルデヒド
② トルエン
③ キシレン
④ パラジクロロベンゼン
⑤ エチルベンゼン
⑥ スチレン
⑦ フダル酸-n-ブチル
⑧ クロルピルホス
⑨ 防蟻剤,木材保存剤,殺虫剤
⑩ 環境ホルモンとVOC
2 住宅の空気汚染発生源 ……………………………………………… 9
(1) 室内のVOC発生源 ………………………………… 9
(2) 建築材料から発生するVOC ……………………… 11
3 県庁の室内空気汚染対策の動向 …………………………………… 13
(1) 厚生労働省 ………………………………………… 13
① VOCの室内濃度基準値
② VOCの測定方法の基準設定
③ 相談体制の整備と疫学調査・医療研究
(2) 国土交通省 ………………………………………… 14
(3) 経済産業省 ………………………………………… 15
(4) 環境省/経済産業省とPRTR法 ……………………16
(5) 経済産業省/日本工業規格協会 ………………… 19
(6) 農林水産省/日本農林規格協会 ………………… 20
4 関連業界のVOC対策 ………………………………………………… 21
(1) 接着剤業界 ………………………………………… 21
(2) 塗料業界 …………………………………………… 21
(3) 壁装材料業界 ……………………………………… 23
(4) 合板工業界 ………………………………………… 24
(5) 建材業界 …………………………………………… 26
(6) 住宅リフォーム業界と紛争処理センター ………… 26
(7) しろ蟻防除業界 …………………………………… 27
(8) 住宅業界 …………………………………………… 29
(9) 住宅金融公庫 ……………………………………… 31
5 海外のVOC規制動向 ………………………………………………… 32
(1) WHOのガイドライン …………………………………32
(2) ノルウェーの室内空気質に関するガイドライン …… 33
(3) デンマークの室内空気質に対する取組み ……… 33
(4) アメリカの動向 …………………………………… 34
(5) 欧米のTVOCガイドライン ………………………… 35
(6) WHO欧州事務局による空気質ガイドライン第2版 …36
(7) フィンランドの建材分類 …………………………… 37
(8) ドイツの建材基準 ………………………………… 37
(9) アメリカのエアー・クオリティ・サイエンス社の基準値 … 38
第2章 VOCの発生源対策
1 塗料 …………………………………………………………………… 41
(1) 塗料の種類と需要動向 ………………………… 41
(2) 塗料のVOC対策 ……………………………… 42
① 厚生労働省の室内濃度指針値
② 塗料の溶剤とVOC
③ 塗料とVOC
④ 日本塗料工業会の基準値
(3) VOC対応塗料の動向 …………………………… 45
2 接着剤 …………………………………………………………………… 47
(1) 接着剤の種類と需要動向 ……………………… 47
(2) ホルムアルデヒド系接着剤 ……………………… 50
① ユリア樹脂系接着剤
② メラミン樹脂系接着剤
③ フェノール樹脂系接着剤
(3) 接着剤のVOC対策 ……………………………… 52
(4) 合板用接着剤のVOC対策 ……………………… 53
① 合板製造時の接着剤
② 合板の2次加工に用いられる接着剤
(5) VOC対応接着剤の動向 ………………………… 55
3 合板 ……………………………………………………………………… 56
(1) 合板の種類 ………………………………………56
(2) JAS規格合板 ……………………………………56
(3) JASの合板の分類と特徴 ………………………57
(4) JAS規格製品の低ホルムアルデヒド化の動向 ………58
(5) JAS認定工場 ……………………………………60
4 壁装材料 ……………………………………………………………… 62
(1) 壁装材の種類と需要 ……………………………62
(2) 壁装材料の規格 …………………………………64
① JIS6921の規格概要
② ISM(Interior Safety Material)規格
③ SV(Standard Value)規格
④ RAL(ドイツ品質表示協会)規格
5 木質系ボード …………………………………………………………… 69
(1) 木質系ボードの種類と需要 ………………………69
(2) 木質系ボードのVOC建材の動向 …………………70
6 可塑剤 ………………………………………………………………… 72
(1) 可塑剤の種類と需要 ………………………………72
(2) 可塑剤のVOC対策 …………………………………75
7 木材保存剤・防蟻剤 …………………………………………………… 76
(1) 木材保存剤・防蟻剤の種類と需要 ………………76
(2) 木材保存剤・防蟻剤とVOC対策 …………………79
第3章 室内空気汚染に対応した建材と設備
1 室内化学物質の測定法 ………………………………………………… 83
(1) 簡易測定法 ………………………………………83
(2) 精密測定法 ………………………………………83
2 換気によるVOC対策 …………………………………………………… 85
(1) 概 要 ……………………………………………85
(2) 換気システムの種類 ………………………… 85
(3) 換気対策の動向 ……………………………… 86
① 西松建設・戸田建設・早稲田大学
② 鹿島建設の実験施設「空気質ラボ」
3 換気システム ………………………………………………………… 89
① (株)アルテック
② 城東化学工業(株)
③ 大鹿振興(株)
④ 新日軽(株)
⑤ 早川工業(株)
⑥ ジェイベック(株)
⑦ ダイキン工業(株)
⑧ (株)THA
⑨ ふたば商事(株)
⑩ (株)マツナガ
⑪ ライフ・インターナショナル・ジャパン(株)
⑫ (株)ライブ
4 断熱材・構造材 ………………………………………………………… 96
① (株)イケダコーポレーション
② 王子製紙(株)
③ 川鉄ロックファイバー(株)
④ (株)木曽アルテック社
⑤ 十條木材(株)
⑥ (株)TALOインターナショナル
⑦ チリウヒーター(株)
⑧ 東亜コルク(株)
⑨ (株)ヒガ・インダストリーズ
⑩ (株)マツナガ
⑪ 恵産業(株)
⑫ 吉水商事(株)
⑬ 立共インターナショナル(株)
⑭ 旭化成建材(株)
⑮ (株)エムアンドケー
⑯ アイティエヌジャパン
5 内装材 ………………………………………………………………… 105
① (株)高千穂
② フジワラ化学(株)
③ (株)壁公望
④ 青森県森林組合連合会
⑤ 伊藤忠建材(株)
⑥ 協同組合長野県信州からまつ工業会
⑦ 岡部材木店
⑧ 札鶴ベニヤ(株)
⑨ 協同組合ジャパンウッド
⑩ 昭和リンク(株)
⑪ (株)セーレン
⑫ TSウッドハウス協同組合
⑬ (株)サメジマコーポレーション
6 外装材 ………………………………………………………………… 114
① 植村産業(株)
② ブライトン(株)
③ パーマストン(株)
④ 東洋アルミニウム(株)
⑤ ダントー(株)
⑥ 富士川建材工業(株)
7 床材 …………………………………………………………………… 118
① 東亜コルク(株)
② (株)上田敷物工場
③ 植村産業(株)
④ いすゞ産業(株)
8 畳床 …………………………………………………………………… 125
① (株)弘峰
② (株)山室
③ (株)ライフネット難波
9 調湿材 ………………………………………………………………… 128
① (株)増田屋
② 日本粉粒炭生産者協議会
③ (株)ライブ
④ (株)スズキ建築設計事務所「木の住まいを創る会」
10 塗料 ………………………………………………………………… 132
① (株)コーティングメディアサービス
② ロックペイント(株)
③ (株)イケダコーポレーション
④ エコリビングコーポレーション
⑤ アトリエベル
⑥ (株)ライブ
⑦ バーバリアンズ(株)
⑧ 安藤産業(株)
11 接着剤 ……………………………………………………………… 138
① 大鹿振興(株)
② 極東産機(株)
③ 矢沢化学工業(株)
④ (株)大力
⑤ ヤヨイ化学工業(株)
⑥ (有)ながら糊本舗
⑦ (株)ナパス
12 防虫・防腐剤 …………………………………………………………… 143
① (株)アルファテック
② (株)日本アロマ
③ 東海機器工業(株)
13 壁紙 …………………………………………………………………… 146
① (株)イケダコーポレーション
② (有)木創
③ 日本ルナファーザー(株)
④ (株)ライヴ
⑤ アトピッコハウス(株)
⑥ 大日本印刷(株)
14 家具 …………………………………………………………………… 151
① ウッドユウライクカンパニー(株)
② 北の住まい設計社
③ シェーカージャパン
15 その他サービス・サービス機関 ………………………………………… 153
① 相談・問合わせ窓口
② ホルムアルデヒド濃度簡易測定サービス
③ ホルムアルデヒド・VOC検査機関
第4章 参考資料
1 用語の解説 …………………………………………………………… 161
2 設計における空気環境の要素 ………………………………………… 164
3 健康住宅推進協議会のテェックリスト ………………………………… 167