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出版社内容情報
ポルトガル語圏初のノーベル賞作家が独自の文体で描く異色作。孤独な戸籍係の奇妙な探求を通して、人間の尊厳を失った名も無き人の復活劇を描く!
●『あらゆる名前』は一見、この上なくシンプルなプロットの動きの少ない小説である。しかし、そのなかにはカフカに通じる官僚化する現代社会を見つめる視点や、人間と人間との関係について、そして背景には、やはり歴史的につくられたポルトガルの風景や言葉などがある。あるいは、あるひとりの人を追い求め人間の心の内を心理学的コンテクストで読むこともできるし、他人を求める人間という視点から、他者あっての自分を考える材料ともなり、ひとつひとつの出来事を社会学的視点から解読していくことも、また全体を包括する広い宇宙という観点から哲学的に楽しむこともできる。聞き手がどのような方向から、どのような距離からアプローチしても相応に答えてくれる小説と言える。
内容説明
孤独な戸籍係による奇妙な探求―人間の尊厳を失った名も無き人の復活劇!ポルトガル語圏初のノーベル賞作家による異色作。
著者等紹介
星野祐子[ホシノユウコ]
1967年生まれ。慶応義塾大学文学部卒業。1994‐96年、ポルトガル、リスボン大学に学ぶ。メーカー勤務等を経て、翻訳者
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
どんぐり
85
サラマーゴの翻訳本9冊目。これでこの作家の翻訳本をすべて読み終える。主人公は、著者と同じ名前の戸籍管理局に勤めるジョゼ。趣味は有名人の出生日・出生場所・両親の名前・洗礼を施した司祭の名前などを探し当て秘密にコレクションすること。物語は、見知らぬ36歳の女性の一枚の帳票を手にしたことでいつもとは違う探索が始まる。大量の個人情報が保管されている場所から新生児の証明書類に書かれたアパートにおもむき、住人から情報を得て、在籍簿のある小学校に忍びこみ、霊園管理局へと向かう。→2022/12/28
hiroizm
29
ポッドキャストのテーマ本のため8年ぶりに再読。 戸籍管理の役所仕事を従順律儀に勤めてきた孤独な50代男性が、ふとしたことから一般女性の書類に興味を抱き、現実の彼女を追いかけるストーリー。生真面目だった彼を規律違反や不法行為まで駆り立てた情熱や戸惑い、不安、背徳感、露見した時の恐怖などの様々な心理のゆらぎを、独特の読点少ない長い文章で理詰めで押してる描いてるところが、難しいと思いつつ吸引力も強、再読なので気をつけていたけど、やはり通勤車内で読むと何度か乗り過ごしそうになった。2023/07/01
りつこ
28
この人の書いた「白の闇」が忘れられなくて、翻訳されたらすべて読みたいと思ってる作家なのだ。白の闇に比べると観念的で哲学的で読みづらい。抑揚のない文章で、現実なのか妄想なのか区別しにくいし、会話さえもも無機質でわかりづらい。しかしなんだろう。究極を書くことで本質をあらわにするという手法が非常に巧みで、気持ちよく読みおわることができた。あらゆることを単純化してフィクションの世界観を押し出しつつあえてそこで地声で語る真実。いやぁ、ほんとにうまい。面白い。2012/07/13
松風
23
【ノーベル賞作家を読む】対話とも内話ともつかない書き方、リアルなのにどこか夢の中のようなエピソード、謎解きのストーリーがあいまって、面白い読み味。記号化される生と死。2014/08/20
algon
12
戸籍管理局に勤めるジョゼ氏はふと手にした1枚の帳票の名も知らぬ女性を偏執的に追い求め調査するようになる。偽の信任状、学校への忍び込み、仕事のサボタージュ…。それらの努力(?)が意味をなさないというのも本人承知だがどうにもならない…。ノーベル賞作家のこの本はちょっと特殊な表現。ロジックをいじり倒したような哲学的分析もあれば句読点だけで会話も流れる。どういう寓意が?とも思ったが死と生を分けるもの…というより生の世界にあって死そのものへの思いに一石を投じたという事か。題意に反して名前が1人だけというのも面白い。2024/01/27