内容説明
感染症が問いかけるものに歴史学はいかに応えうるのか。政治と社会の分断、新たな排除と差別、労働・格差・ジェンダー問題―新型コロナウイルスによって浮き彫りにされた現代社会がはらむ諸問題に対して、気鋭の歴史家たちが新たな視座を提示する。
目次
序 問題提起:新型コロナウイルス感染症が歴史に問いかけるもの
第1章 感染症拡大の歴史的再検討・歴史学の位置
第2章 医療史・公衆衛生史のなかの感染症
第3章 感染症をめぐる政治と社会の分断・緊張
第4章 感染症による現代国民国家の変質
第5章 感染症が照らしだす人権と差別
第6章 感染症をめぐる格差・労働・ジェンダー
第7章 感染症と歴史実践
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Schuhschnabel
4
コロナを契機とした歴史学の新たな形を提示しているのかなと思ったら、もちろんそういう論考もあるが、気候変動や自然災害が環境への気づきを与えたように、新型コロナ感染症のパンデミックに疫病への気づきを与えられたという驚きがにじみ出ている。中国での強力な私権制限は、地域組織による長年にわたる衛生活動によって支えられているとは知らなかった。また、この状況を記録に残す活動がされているらしく、そのこと自体は重要だと思うのだが、これまでたまたま残ったものに依拠してきた歴史学にとって扱うのに苦労するかもしれないなと思った。2021/05/11
Go Extreme
2
感染拡大の歴史的再検討・歴史学の位置:感染症の歴史学・新自由主義化のコロナ 医療史・公衆衛生史のなかの感染症:安政コレラ流行と蘭方医・環境/感染症/公衆衛生 感染症をめぐる政治と社会の分断・緊張 感染症による現代国民国家の変質:国家と国民の関係の変容 感染症が照らし出す人権と差別:感染症とと中世身分制・衛生と自治・アメリカ社会 感染症をめぐる格差・労働・ジェンダー:日本古代の疾病と穢・パンデミックとジェンダー分業 感染症と歴史実践:考える歴史学を教える試み・いま歴史研究に何ができるか・忘却と変質の相克2021/01/30
contradiction29
1
新型コロナウイルス感染症は国家・社会・経済・文化、そして人間の在り方について、格差・貧困・差別を一層顕在化させ、国家間や民衆間での分断の進展、現代国民国家における民主主義の危機など、さまざまな問題を露呈させた。ワクチンをめぐるデマの流布や政府による給付金政策、医療統制の在り方など、危機を前にしてもなお真の意味での「団結」は成し遂げることができないことは今や明らかだ。ならばせめて、達成不可能な「団結」を煽ることはやめて、ある種の強権的な政策をとることに対して正当性が付与されるのではないか?民主主義の価値は?2021/10/16