出版社内容情報
山口天音さん19歳。大阪はアメリカ村から徒歩5分のビルの谷間に生きる、重い重い「障害」をもつ少女。果たして、何を喜び何を苦しんでいるのか、彼女の両親、平明・ヒロミさんたちにももちろん、彼女に関わる医療関係者にもわからない。平明氏いうところの「なぞなぞ少女」。そんな天音さんのイノチを支える父・平明氏が脳こうそくで倒れる! 一家の大ピンチからはじまる、『娘 天音 妻 ヒロミ』に続く第2弾。ヒロミさんの銅版画も必見。
はじめに
1 魔の三角地帯
今は昔。あんたのことは何でもわかってるよ、と母にいわれたとき、僕はじつに厭な気分になった。大人になっている自分が、にわかに小さな子どもになって母を見あげているように感じた。
わかってほしいと願っていたはずなのに、わかってますよといわれたとたんに「わかってたまるか」と反発したのだった。
ここには、およそ他人にはわかりえない自己が居る、と信じている私がいる。たとえ親であろうとも、おのれでさえいくら考えてもわからない自己をかんたんにわかられてたまるかっ、てね。
私たちのたった一人の子ども・天音は、生まれてから今日まで19年間、誰にも理解されないままで暮らしてきた。ずっと家庭で暮らしをともにしてきた親ばかりでなく、その道の専門家であるお医者さんも「わからんねえ」とおっしゃる。言葉は通じない。天音の望みを受けとめようとすると、ともに同じ家に住みともに時を過ごしていること、すなわち共棲/「在宅」だけがかすかな理解への入口になるはず。 天音という存在は、一個の大きな謎である。だいいちおしゃべりできなくとも、歩けなくても親をはじめ周りの人間の扶けによってしっかりと生きている。生きにくくて重い重い「障害」をもってい
目次
魔の三角地帯
怪しのビルに怪しのバー
闇を支配する魔王
恐怖の報酬
抱っこ隊の大喧嘩
この夏の主役は脳梗塞の父
夫は入院、娘と妻は夏祭り(山口ヒロミ)
ぼやきと愚痴の夫婦善哉
自著を見に行く散歩リハビリ
過呼吸症で親いじめ〔ほか〕