内容説明
『小鳩』は、少女同士のこころの交流とやがて大人になっていく感傷的な思いを描いた少女小説である。また、幼い男女の恋心の記憶は、『林檎』で、明日嫁ぐみちよと、幼なじみの御幸との会話に組み込まれている。それらは、ハワイの現実や中国大陸やヨーロッパでの記憶が重ねられて、エキゾチックな物語となっている。そのほか、薄幸の少女おさわの日常と夢を描いた『燕来る日』、陥れられた若妻に手を差し伸べる尼僧の義憤と活躍を描いた時代小説『尼僧物語』を所収。
著者等紹介
長谷川時雨[ハセガワシグレ]
1879年10月1日、東京日本橋生まれ。弁護士の家庭に育つ。小学校を経て、行儀見習いに出された。1897年に結婚し、その生活のなかで作家デビューしたが、後に離婚。さらに小説投稿を続けて、坪内逍遙に師事。やがて雑誌「女人芸術」を創刊、女性作家の発掘育成に活躍。また、年下の三上於莵吉を支えながら、作家活動を続けた。第二次世界大戦下は、戦時体制に協力して大陸に渡るが、体調を崩して発病、1941年8月に東京で没した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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鳩羽
7
「小鳩」や「林檎」の、望んでもいないけれどどうしても嫌というほどでもない、そもそも自分で決めたり考えたりするための土台がないけれどなんとなく塞ぐ、という少女たちの結婚が痛くて悲しい。「小鳩」の倭文子は弱々しいままに吹き散らされるだろう。「林檎」のみちよはまだ大丈夫そうだけれど。そう思うと、よっぽど悲惨な境遇にある「燕来る日」のおさわの方が、たくましくいられそうだ。お姉さまだったり老尼だったりと、女から女へのつながりは具体的な助けにはならない。そっくりそのまま相手を受け入れて悼む、その繰り返しのようだ。2015/04/30
ひとみ
1
長谷川時雨による少女小説や女性向けの小説数編。嫁ぐ前に幼馴染とかわした会話でヒロインが自身の結婚や自分の親に対してどのような思いを胸に秘めているのかを語る表題作など、美しい理想の世界を夢にみながら儘ならぬ現実で生きる女子の姿を描くことで社会への違和感を浮かび上がらせるスタイルが共通しているような。後に流行するような少女小説なようなモダンさはなく堅くて感傷的だが、これはこれで得難い味わいがある。人情の機微の絡まり合いやぶつかり具合が面白い時代小説の「尼僧物語」は読み応えがあった。2015/06/07