感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
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「初夏の夜もまだ新しい頃、夕涼みという言葉にまさにふさわしい出現なのか、街中では、例えば路地のように上空が適度に切り取られかつ開かれた空間に人々が降り出ていくということがあり、視界の正面に母親が次に子供が現れ、と同時に温められたカラメルの匂いが一斉に呼び出す、手を握られるという明らかな知覚の誤りが起こり、それゆえ実際にこの身に生じたことではあり、声はやはり聞かず、どうしようもなく一方向ではあるにしても、何度でも呼び起こされる、または引き寄せられるということがあってかまわなかった。」(47ページ)2020/02/11
DELEUZE
3
「それ自体が独立した生のような完結性を持ったこの季節」…アンダルシア地方・グラナダの過酷な夏は、詩人の知覚を鋭敏にさせる。それはグラナダにおける市井の風景を通し、植物やカラメルの匂い、鳥のさえずりや子供たちの歓声、外界の気温など、それ自体は目に見えないものへの精察を促す。そしてグラナダの自然が恩寵として詩人に与えた特別な知覚が「詩」を作らせる。特別な知覚…「予感は、どんな知覚に属するのか?」…詩人から読者への問いかけは、読後もずっと謎のまま残った。2020/01/25
Cell 44
2
「生きていてただ此処にいない人の面影と亡霊たちの影、或は現実には一度も存在しなかった者たちの揺らす空気は、どこが似かより、どの点で異なっているのか、」(「Adagio ma non troppo」)かつて書かれつつあったテクストが、しばらくひとりの手を離れ、いま、ひとりが読みつつある現在の中の過去となること。前半はグラナダの光の中で知覚をめぐる文が、後半はフェルナンド・ペソアがかつて記した手紙に重ねられた「待ち合わせ」についての文が、その散文詩が他者と〈出会う〉ことへの真摯な問いと思索とともに綴られる。2021/01/28