出版社内容情報
歌集
著者=石井 辰彦(いしい たつひこ)
写真=普後 均 装幀=亞令
また星が流れるなんて! 行軍に疲れし馬の項垂るる野に
石井辰彦
深い夜闇の世界を往く、懊悩と嗟歎の歌
あの日、21世紀は苦悶の叫びとともに始まった。混迷する世界は老躯を曝し、夜明けを期することさえならない──空港も未来も封鎖。だって、全人類一気に老ゆる夜、だぜ
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Cell 44
1
12の連作とその間に挿入される普後均の5葉の写真から成っている歌集。連作にもエピグラフや散文が織り込まれたり、連作自体も楽曲の型式をなぞったりと一筋縄ではいかないが、面白く読めた。著者から見た二十一世紀初頭の世界の惨状(それは挿入された写真にも象徴的に示されているのだろう)が、恐らく釈迢空や岡井隆らの変奏なのであろう、句読点や記号の飛び交う口語体の中で、口籠られつつ、身を撓めつつ、けれど気持ちのいい啖呵とともに詠われる。「空港も未来も封鎖。だつて、全人類一気に老ゆる夜、だぜ」2017/08/08
桜井夕也
0
「空港も未来も封鎖。だつて、全人類一気に老ゆる夜(よる)、だぜ」「隈もなく世界は霽れて…… 澄んだ眼の・なんて邪悪な・殉教者・なの?」「始まつてゐますの、ね、もう。薔薇色にむせぶ恋人たちの日暮(ひぐれ)は」2014/10/12
DELEUZE
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「ああ、もっと、理解りあへたら! 惨劇の都市の真昼は僕たちの夜」… 21世紀最初の年は、9.11の災厄によって世界の破滅と終末を人々に予感させた。作者は人類の愚行を短歌形式で嘆く。そんな愚かな者達とは対極的な「完璧な存在」としての光源氏の不在を惜しみ、欺瞞に満ちた世を憎み続けた中上健次の死を悼み、ネロ帝暗殺の謀議を疑われ自殺させられたセネカに感銘を受け、宮廷の権力闘争に巻き込まれ不遇な晩年だった悲劇の詩人・李商隠に心を寄せる。いつの時代も憎まれ者ばかりが世に憚り、惜しむべき人々の去る事を憂う黙示録的歌集。2020/01/22