内容説明
砂と灼光と風の大地を往くナイル。人間の日々の喜びと骨折り、さかしらと滑稽が流れる。五千年の彼方から、王たちの声とかわいた虫の足音を運ぶ。
目次
川
源
時
砂
流
扇
系
岸
船
冥
像
跡〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みねたか@
31
舞台はナイル。氾濫による肥沃なデルタ、全てを覆い尽す砂、閉ざされた墳墓、そしてどこまでもどこまでも続く河の流れ。紡がれる言葉は悠久の時を超え、生と死のあわいを越え、時には時空を超え銀河にまでもたどり着く。「ハドリアヌス帝の回想」の訳文の硬質なエロスは、詩においてこそその魅力が味わえる。吉野史門氏の装丁もとてもしっくりくる。2021/01/01
skellig@topsy-turvy
18
題名通り、「エジプトはナイルの賜物」を感じさせてくれる詩集。大きな生命のリズムに乗りながら、生と性と死を巡る人間や動物がぽつりぽつりと端正に描かれる。大地はナイルの水に浸されて歓喜に身を震わせ、空は太陽を産み落として「聖なる分娩の血」を流す。悠久の時と空間の突き抜けるような拡がりを感じられた作品でした。2014/01/18
ふるい
9
ごく短い言葉からでも、豊潤なイメージが湧き上がってくる。研ぎ澄まされた言葉。多田さんの詩はかっこいい。2018/12/01
うた
6
万年の時を旅するかのような詩集。かるみのある詩を次々と追っていくと、気が付けばナイルの川べりに立って、大河の流れや砂のゆらめきを眺めている錯覚に陥る。一つの詩に一つの漢字があてがわれており、それらをイメージさせる詩が停や回がエジプトらしい(行ったことはないが)と思う。2015/03/22
いやしの本棚
4
遠い砂の国を旅しているような気持ちになれる。余白の多い詩集は、頁を開いているだけで心が落ち着く。「めまいして墜落しそうな深い井戸―/あの蒼天から汲みなさい 女よ/あなたのかかえた土の甕を/天の瑠璃で満たしなさい」多田智満子さんの詩は、「深い井戸」を覗き込むような幻視に満ちている。そこに惹かれる。2015/07/10