感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
71
セルビアの作家パヴィチの16の作品を集めた短編集。中世セルビア・ネマニッチ朝の戴冠できなかった王の「忘れても、書いても」「書かれてしまったときには、読んでもならない名前」を巡る『アクセアノシラス』など奇妙で魅力的な物語が並びます。それは、本に夢中になっている間に数世紀を飛び越えるといった不思議さや、中世セルビアの王族とその王国の修道院、サラエボ事件など古今のセルビアの歴史や事績に彩られていて、虚実のあわいから醸し出される居心地の悪さと美とに惹かれずにはいられません。作者の作った迷宮をたっぷり楽しみました。2022/09/22
ヘラジカ
56
セルビア文学。一篇の短い物語のなかにも複雑で急激な流れがあるので、読んでいると非常に眩惑される。それぞれほんの十数ページの作品だが、気を抜いていると自分が今どこに立っているのかが分からなくなるのだ。結末は割合に分かり易く提示されているものの、捩じくれ歪みきった時空間によって、悪夢にうなされた後のような気怠さが身体に残った。めくるめく神秘と幻想の世界、濃密で強度の高い読書。正直に言うと途中でついていけなくなるくらいに難解な作品もあった。一番好きなのは「沼地」かな。2021/11/03
彩菜
35
現代においてパヴィチほど夢の文法に堪能な者がいるだろうか。この16の物語はまさに本物の夢のよう。古の王がぐるぐるさ迷う修道院で修道士は未来の罪で処刑され、ある男の夢治療は五百年後に成就する…過去と現在と未来、時を縦横にその起源と存在の説明があり、罪には理由が、物事には因果があり…全てを解明可能に見せながら、ただその夢の意味だけは「解きえぬ謎」とし去って行く払暁のあの夢。ああ、夢から恐れと痛み、死だけを残したようなこの謎のなんと不安で、だが甘美な事だろう。眠りもせず醒めもせず、まだこの謎を迷っていたい2023/02/06
ベル@bell-zou
28
誰かの事を眺めていたつもりがそれは自分だったという夢のような。道標通りに歩いていたはずが元の場所に戻っていたような。決して悪夢ではないけれど惑わされる。歴史に翻弄され続けたセルビアという国の土壌から立ち上る幻影が靄のように一篇一篇隅々まで浸透していく。難解でわからず仕舞いな篇が多かったけれど不思議と読むのをやめようとも思わなかった。セルビアの歴史と宗教を知っていたらという悔しさが残りつつ。"猫の沼地"を探すアマリヤ・リズニッチ「沼地」、絵画に描かれた読めない譜面の謎「ワルシャワの街角」が面白かった。2022/11/03
内島菫
18
読者を安心して読書させたくないという野心を感じる。そうした作者による揺さぶりは、読者に呼びかけることで作品内に巻き込もうとするような「アクセアノシラス」や「聖マルコ広場の馬 もしくはトロイアの物語」よりも、「裏返した手袋」の途中で時間を巻き戻す構成の方にこそ感じた。巻き戻される時間はそのまま巻き戻されるのではなく、少しずれて巻き戻される。また巻末の解説を読むと本作の主要登場人物の二人は歴史上の人物らしく、彼らが小説内に登場すること自体で生じるズレと、先の逆流する時間のズレとが不協和音の二重奏を奏で、2022/06/06
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