内容説明
旱魃が続き、海が魚の死骸で埋め尽くされた1967年の夏。その異常な季節を、語り手「僕」と仲間たちは、ヴァイゼルというユダヤ人少年と共に過ごした。夏の終わりヴァイゼルは姿を消す。そのときから今に至るまで、「僕」は問い続けている―「ヴァイゼルとは何者だったのか」と。発表されるや「10年に一度の傑作」と絶賛され、作者ヒュレの名を一躍高らしめたデビュー長編、待望の邦訳刊行。
著者等紹介
ヒュレ,パヴェウ[ヒュレ,パヴェウ] [Huelle,Pawel]
1957‐。グダンスク(旧ドイツ領ダンツィヒ)に生まれる。大学卒業後、大学講師、自主労組「連帯」の広報宣伝スタッフ、グダンスク・テレビ支局長、文芸批評家などとして活動するかたわら詩を書き、文壇デビュー。世界各国語に翻訳される現代ポーランド文学の作家のひとり
井上暁子[イノウエサトコ]
東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得満期退学。博士(文学)。現在、熊本大学文学部准教授。専門は、ポーランド語圏を中心とした中・東欧文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヘラジカ
42
複雑に入り乱れる時空間にも、物語としては決して読みにくいとは言い難いのだが、どうにも解釈に困るシーンや文章が多く読むのに大変苦労した。不思議な少年ヴァイゼル・ダヴィデクの行動や言動、黙示録的な舞台設定、随所に見られるアンチ・クライスト的な象徴など、理解が追いつかない部分が多い。テーマと方向性の”曖昧さ”にも若干酔いそうな気持ちの悪さを感じた。気合いで読みきったが感想を書くことはおろか、訳者あとがきでの解説を読む気力すら残っておらず。全貌を知ってから読み直せば見えてくるものがあるのかもしれない。要再読。2021/03/15
ネムル
12
1957年の夏、謎の失踪(爆死?)を遂げた悪童ヴァイゼル。失踪前の回想、戦争ごっこ、失踪後の軍人からの尋問、そして成人してからの記憶の遡及と、物語は直線的に語られない。その往還する時制と、尋問からの隠蔽、捏造、記憶の錯綜を通した「物語」への試みが、グダンスク(ドイツとの国境にある町、ドイツ読みでダンツィヒ)の複雑な歴史をあぶり出す。この至って素直じゃない叙述がグダンスクをノスタルジーから退け、土地を描くことへの倫理を模索しているように感じた(あまり地にこだわらないトカルチュクを連想もしたが)。2021/05/16
バナナフィッシュ。
4
マジックリアリズムの範疇なのかな。その時代のポーランドの状況、(大人達が思う)事故への解明。ヴァイゼルがやりたかった事は伏線回収にはなっていないので、ストーリーとしての満足度は少なかった。2023/07/15
だけど松本
4
最後にはわかるに違いないと思って我慢して読んできたがわからず。時間を無駄にしてしまった。ヴァイゼル・ダヴィデクは何がしたくて何をしてどうなったの???ここまでなんにもわからん小説もそうそうないわ!2022/05/21
フランソワーズ
4
ヘレルら少年3人の、ユダヤ人の少年ヴァイゼルへの絶大な信頼と憧憬、その彼と行動を共にするエルカへの淡い想い。大人たちには到底わからない真実。重苦しいポーランドの町で起きたひと夏の思い出が時を経て物語られる。→2021/04/07